142 期待の新薬と検査法

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2019年12月12日 第50号

 いつもの通り、地元日刊紙を読んでいました。第一面の記事にとりあえず目を通し、その他の見出しを拾い読みしていると、小さな記事が目に止まりました。サンディエゴで行われた学会、「アルツハイマー病臨床試験会議」において発表された、アルツハイマー病による認知機能の低下を遅らせる新薬の記事でした。この新薬は、その有効性が認められる結果が出ず、一度は治験を中止した経緯のある薬で、投与量を変えたことにより、効果が認められたということです。

 「アデュカヌマブ」というその薬は、研究・開発に、アメリカのバイオジェンと、日本のエーザイが共同で関わっています。 注目される理由は、「アデュカヌマブ」の、認知症そのものへの効果が期待できるためです。これまでの認知症関連の治療薬には、エーザイが1997年に発表した「アリセプト」に始まり、幾つかの種類がありますが、どれも一時的に認知機能を改善する効果にとどまっています。世界各国の製薬会社が、単独または共同で新薬の研究を続ける中、「アデュカヌマブ」が承認されれば、認知機能の低下を抑える、世界初の治療薬が誕生する可能性が出てきたことになります。

 この学会で発表された研究で、 もうひとつ興味を引くものがありました。血液を使ってアルツハイマー病を診断する方法を、日本のエーザイとシスメックスが共同で開発を進めているというものです。血漿中に現れる「アミロイドβ蛋白」から、脳内の「アミロイドβ蛋白」の病理を把握できる可能性が示唆されたことを、シスメックスが代表して発表しました。

 「アミロイドβ蛋白」は、本来、脳内で分解されて消えていくものです。しかし、なんらかの原因で分解しきれず、脳の神経細胞の外に溜まってしまいます。これが「老人斑」といわれるものです。この「アミロイドβ蛋白」の蓄積が引き金となり、神経細胞内に「タウ蛋白」が溜まり、その結果、神経のシナプス障害や神経細胞の破壊をもたらします。これらの変化により、認知機能障害や精神症状、行動障害を引き起こし、「アルツハイマー型認知症」となります。(前述の「アデュカヌマブ」は、蓄積した蛋白質を取り除く効果のある薬です。)

 「アミロイドβ蛋白」や「タウ蛋白」の凝集・蓄積は、認知機能障害が現れる前から始まることが知られており、その原因は解明されていません。生活習慣病や遺伝との関連も指摘されており、遺伝性の場合、65歳未満で発症することが多いことがわかっています。一般的には、50歳前後で「アミロイドβ蛋白」の蓄積が始まり、脳内の神経細胞に「タウ蛋白」が増え始め、70歳前後で認知症の症状が出始めると考えられています。

 現在、行われている脳内の「アミロイドβ」の検出方法には、アミロイドPETと脳脊髄液中に検出される特定の「アミロイドβ蛋白」(アミロイドβ1 40および1 42)の比が用いられています。しかし、これらの検出方法へのアクセス、かかる費用、および体への侵襲性の面で、検査を受ける人にとって大きな負担となっています。血液検査により、簡単にアルツハイマー病を診断することができるようになれば、早期診断、早期介入し、早い時期から認知症の進行を遅らせる薬を服用することにより、元気に生活できる期間を伸ばすことができます。

 しかし、新しい治療薬が海外で承認されても、それがすぐに他の国で承認されることにはなりません。仮に承認されても、薬価の高い薬になる可能性があります。医療保険制度がある国でも、 誰もが使える薬になるとは限りません。

 安価で手に入り、発症を数年でも抑える薬が登場すれば、世界の医療費はどのくらい削減できるでしょう。

 「アデュカヌマブ」に目が離せません。