96 「君の膵臓が食べたい」と読書

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~グランマのひとりごと~

 「だーれもいない!」、「さびしなぁ」、グランマは呟きながら、2階のプレイルームへ入って行った。

 そこは孫娘レイナが、昨年夏の帰国まで、使っていた広い玉突き台が置ける大きな部屋だ。

 彼女は2年前までモントリオロールの「サーカス ド ソレイユ」で、付属の学校へ行きながらでんぐり返しや、綱わたりに、綱登りとサーカスをやっていた。彼女と体育練習所に一緒に行くと、でんぐり返しが大好きで「グランマ、見てぇー!」と叫び、だっーと走り出し、空中で2回転して床に降りる。

 顔も可愛いし、気持ちも優しい。何の理由か、引き留められたのにサーカスを止めてバンクーバーへ来た。フランス語のわからないレイナが、いじめにあったのではないかとグランマは心配した。

 しかし、事実は全く逆。皆の暖かい労わりや、励ましがあったそうだ。だから、理由は全くわからないが、とにかくサーカスは止めた。そして、しばらくリッチモンドの高校へ通っていたが、日本で自分が入りたい高校が見つかり入学できると帰国した。忍者遊びが好きな彼女は今もう大学生だ。

 整理されたその部屋に、彼女が読んでいた本がずらーっと並んでいた。グランマは1冊の本を手にした。「君の膵臓をたべたい」住野よる著。「嫌だなぁ、変な題!膵臓を食べたいなんて…」と思いながら、それでも15、6歳の少女が読む本にすごい興味を持って、読み始めた。

 読み始めると主人公がテレビで観た、「昔、病気になると、動物の自分の病気の部分と同じ部分を食べて治療した」という話を聞いた。だからこの本の主人公は、自分の膵臓病完治を願い「君の膵臓が食べたい」と言ったのだと思った。

 そして本の題名となったとグランマは思いながら読んでいた。すると読み終わった時、他に素晴らしい意味があることを知る。面白い、実に面白い本だった。

 ところで、ある時、私の友人が以前、81歳の私に以下の様なダジャレを送ってくれた。

【18歳と81歳の違い】

◯道路を暴走するのが18歳       道路を逆走する81歳

◯恋に溺れるのが18歳          風呂で溺れる81歳

◯自分探しするのが18歳        皆んなが探す81歳

◯恋で胸を詰まらせる18歳       餅で喉を詰まらせる81歳 

◯心がもろいのが18歳          骨がもろい81歳

◯偏差値が気になるのが18歳    血糖値が気になる81歳

◯知らないことが多いのが18歳    忘れたことが多い81歳

◯人の言うことをきかないのが18歳  人の言うことが聞こえない81歳

◯学校で友達に会うのが18歳    病院で友達に会うのが81歳

 これが見事にこの「81歳」の私にぴったり。なんだか、だんだん仲間が老人趣味でまとまって来る。

 でも、このグランマ脳卒中に始まり、病気ばかり。とても元気な老人達の趣味について行けない。それにねぇ、これほど何もできない人って、この自分以外知らない。老人仲間でも、カメラ・写真撮影(機械音痴)、カラオケやコーラス(まるきり音痴)、ゴルフ(腱板断絶症、肩が使えない)、自転車(バランスが眩暈でだめ)、ハイキング(杖が付けないとだめ)、コンサートや講演は(難聴でだめ)、絵画?これも肩の痛みで筆が使えない。

 ああ、こうなると読書くらいだなぁ。結局、毎日本ばかり読んでいる。

 次女がこの間、Michelle Obamaの『My Story』579ページを土産に日本から持ってきてくれた。わずか2日半で読み終わった。するとサンフランシスコの長女がHillary H.Clintonの『What Happened』(何が起きたのか?)513ページを送って来た。これはまだ読み終わっていない。時間がかかるのだ。考えさせられながら読んでいるからねぇ。

 そして別に、孫の書棚からふっと手に取ったのが『君の膵臓が食べたい』、つまり「キミスイ」、この若者の読む本。想像に反して大変意味深かった。無論、著作者にも興味を持った。ところが「住野よる」って男?女?性別が分からない。「キミスイ」は映画化され、2016年本屋大賞第2位、本もベストセラー、その作家の年齢、性別、経歴と全て非公開。

 しかし、このグランマ、そんな住野さんの「そこに」ものすごく興味をひかれた。これでもか、これでもかと、自分の名を売ろうとはりきっている人ばかりの今、「小説家は裏方で、本より目立つべきじゃない」と思っている作家なのですって。 何だか住野さんの存在、無性に希少価値が感じられて面白い。

 小説の主人公の名前が「志賀春樹」という。そして、ある人が志賀直哉と村上春樹の名前からとったのではないかと言って笑った。

 読書趣味というのもなんだかとても楽しい。たった一つの趣味でもいい。短い命、ワクワク生きなきゃもったいない。

グランマ澄子


 好評の連載コラム『老婆のひとりごと』。コラム内容と「老婆」という言葉のイメージが違いすぎる、という声をいただいています。オンライン版バンクーバー新報で連載再開にあたり、「老婆」から「グランマのひとりごと」にタイトルを変更しました。これまでどおり、好奇心いっぱいの許澄子さんが日々の暮らしや不思議な体験を綴ります。

 今後ともコラム「グランマのひとりごと」をよろしくお願いします。