第106回 「イタドリ」 

1924

~グランマのひとりごと~

 さっきテレビを観ていたら、3人の山寺の女性が“イタドリ”の料理を作っていた。わぁー懐かしい!“イタドリ”ってね、ちょっとすっぱくて私が子供のころ何処にでも生えていた食べられる雑草なの。

 昔、その家を出て、少し坂を下だると町の方から子供達が上がって来る。

 坂の途中で、坂上の子供達と坂下の子供達が出会う。坂下の子供達は両手を身体の後ろに隠して、見せないようにしながら、坂上の子供達に「何食べてるだっぁ?」と聴く。坂上の子供達は決まって「豆かすだぁ」と答える。

 毎日、毎日、子供達は“豆ッかす”をおやつに食べていた。でも東京から疎開で来ている坂上の子供達はその“豆ッかす”は手に入らなかった。“豆ッかす”は大豆から全て栄養分を取りのぞいた、豆の皮など残った“かす”なのだ。それを炒って、おやつにしているのは伊東(伊豆)の町の子供達で、私達、東京から疎開してきた子供達には、それすらなかった。

 母方の両親、グランマの祖父母は伊豆の伊東に山と家を持っていた。その家は外から山を登るように石段を上がるとちょっとした広場があり、突き当たり左側が山の中腹でそこを掘って大きな防空壕になっていた。その右側が我が家の2階入口だった。そこに結核を患って寝ている2人の伯父と叔父がいた。兵役で海軍に入ったが、結核で帰ってきた叔父と、長い間、やはり同じ病気で療養をしていた伯父の2人だ。東京は空襲で住めない。兎に角、家族一同、皆この伊東へ疎開してきた。

 警戒警報のサイレンが鳴ると、町の人達が皆その防空壕めざして坂を上って来る。それぞれ、防空頭巾を被り、水筒を肩にかけ、軽い食物を持ってくるのだ。私は何歳だったのだろうか? 終戦時私は6~7歳だった。

 戦時中は祖父母も母も皆、山へ農作業に出かけ、子供達も一緒について行くが、そこで、子供達は食べられる雑草を探し、又木の実を取る。色々な木の実が取れる。でもそれらは子供の口に入らない。2階の伯父さん達に食べさせて上げるためだ。伯父さん達はとても喜んでくれる。それが嬉しくて、嬉しくて毎日一生懸命、木の実を取った。そして、その時、ハコベやイタドリも取って帰ると伯母や母たちが料理してくれた。

 明け方、暗いうちに子供達は揃って浜辺へ行く。夜明けに漁を終えた漁船が網を引いて陸へ上がって来る。その網から小魚が沢山落ちるのだ。それを私達子供が拾い、バケツに入れて持ち帰る。大抵、魚は「小鯵(こあじ)」だった。美味しかった。鯵(あじ)のたたきを存分食べる事が出来た。

 終戦と同時に東京に戻った我々家族だが、戦前の家は全部焼けていた。あっちの親戚、こっちの親戚と頼りになる所を転々として、数ケ月。やっと自分達の家が建ち住む所が出来た。そんな時代から、もう75~6年が過ぎたのだ。

 そして、今日観た、テレビの“イタドリ”料理、それがこんなに懐かしく思い出されるなんて。何だか食べたくなった。未だにあの酸っぱい味を覚えている。

 そして、振り返ると第2次世界大戦、香港で垣間見たベトナム戦争、文化大革命、半世紀前に移民して行った寒い真冬のモントリオール。そこでの“静かな革命”と苦しい事が一杯だったはずなのに、不思議にどれも懐かしい思い出となっている。本当に不思議だ。

 フランス語の話せない私達は職が見つからず、とうとうバンクーバーへ越した。まずバンクーバーへ来て嬉しかったのはお米が買えたことだ。モントリオールでは白米が買えず、年2回はトロント迄、家族全員で国宝ローズの買い出しに行った。バンクーバーへ来たら友達の数もグーンと増え、仕事もすぐ見つかった。

 と言っても友人の紹介で得た一般事務の仕事だが、まぁ自分でもあきれるくらい何もできない。兎に角、ペイロールから、何から何までそれらの書類自体初めて見るのだから仕事にならない。退職予定の秘書は退職できないだけでなく、その後8ケ月間、私のトレーニングをしてくれたのだ。お陰で彼女は最終的に退職せず、私は8ケ月後に他社に仕事を見つけ、私が退職した。

 要するに私は給料をもらいながら事務の仕事を8ケ月間しっかり教えて貰っていたのだ。何故「首にならなかった?」それはその社長が社長になるまでをずっと世話した人が、私の紹介者だったからだ。両者に私はただ只深謝している。有難い。

 人と人の繋がりの大切さ。ご縁ですねぇ。

許 澄子

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 好評の連載コラム『老婆のひとりごと』。コラム内容と「老婆」という言葉のイメージが違いすぎる、という声をいただいています。オンライン版バンクーバー新報で連載再開にあたり、「老婆」から「グランマのひとりごと」にタイトルを変更しました。これまでどおり、好奇心いっぱいの許澄子さんが日々の暮らしや不思議な体験を綴ります。

 今後ともコラム「グランマのひとりごと」をよろしくお願いします。