第48回 消せない「シミ(汚点)」を教訓に

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ジェンダー・ギャップ指数

 もし世界や日本のニュースをつぶさに追っている読者であれば、153:121と言う数字を見ただけで、何を示しているか容易にお分かりと思う。これは世界経済フォーラム(WEF)が公表した各国における男女格差を測る最新版のジェンダー・ギャップ指数(GGI)で、日本の順位は世界の153カ国中121位と言うことを示しているのである。

 言わずと知れた上位4カ国は北欧の国々(アイスランド、ノルウェー、フィンランド、スウェーデン)であるが、5位にはニカラグア(中央アメリカ)、9位にはルワンダ(東アフリカ)がドイツ、フランス、カナダ(19位)などの西欧諸国を押しのけて堂々とランクインしている。

菅義偉首相 ©首相官邸ホームページ
菅義偉首相 ©首相官邸ホームページ

 ひるがえって日本は、政界を見ただけでも衆院議員の比率は10.1%で、去年9月に発足した菅義偉氏(72)率いる新内閣では女性大臣はわずか2人。ビリから数えた方が早い体たらくなのは、性別の多様性が極端に低い現状を如実に物語っている。

 菅内閣は昨年11月に男女参画会議で、「企業や官公庁などの女性役員及び管理職の登用を2020年代の可能な限り早い時期に、指導的地位に占める女性の割合を30%程度となるように取り組む」と語った。

 これを聞いて筆者は「おやっ?」と思った。

 確かこの目標数字は、03年頃に「20年迄には」と言っていた筈ではなかったかと…? だが現実には17年後の‘19年にやっと15%弱に達成したに留まっているのが現状なのだ。

森喜朗氏の女性蔑視発言

 言うは易しで、政府の掛け声はいつも威勢がよい。だが実際には男性ばかりの国の指導者たちが、真剣にこの問題と取り組まず先送りして来たことが、民間企業の間にも「多様性」への理解が見られない社会を容認してしまったのだ。その流れの行き着いた先が、今回の森喜朗氏(83)の女性蔑視発言を生む原拠になったと思える。

森喜朗氏辞任についての野田聖子氏のツイッターより

 2月3日の発言から2週間ばかりの流れは、目を見張るものがあったものの、恐らく森氏の心の奥底にはいまだに「どうしてあの発言が…!? そんな積りではなかったのだが…!?」との思いが渦巻いているに違いない。何故なら彼が政治家として活躍していた時代的背景、男のみの社会の中で築いた輝かしい業績のお陰で、東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会の会長職に鎮座したことを思えば分かることだ。

 今回のことはほんの一例に過ぎず、森氏は今までも同じような失言があったようだが、周囲にはそれを強く咎める人(咎めることが出来る人)がいないと聞く。それ故に世の流れを身を持って体現できるチャンスには乏しかったのだろう。

 そんな男社会の温床の中で、現在の政界を牛耳っている政治家が他にも何人かいるのは周知の通り。その代表格は二階俊博幹事長(82)である。

総理大臣官邸での二階俊博氏 ©首相官邸ホームページ
総理大臣官邸での二階俊博氏 ©首相官邸ホームページ

 森氏の失言でボランティアが大量に辞退した事に関し二階氏は、「どうしてもお辞めになりたいということだったら、また新たなボランティアを募集する、追加すると言うことにならざるを得ない」などと、問題の本質をわきまえない発言をして火に油を注ぐ結果になった。

麻生氏の暴言

 また失言/暴言に関しては、副総理兼財務大臣の麻生太郎氏(80)もその筆頭の一人。7年8ヵ月も続いた安倍政権が菅政権に変わっても、一向に変わらないのが配慮を欠いたこの人の物言いである。

麻生太郎第92代 内閣総理大臣 ©首相官邸ホームページ
第92代 内閣総理大臣 麻生太郎氏 ©首相官邸ホームページ

 去年新型コロナによる死者数が、欧米と比べて日本が少なかったころ、海外から問われたことに対して「おたくとうちの国とは国民の民度のレベルが違う」等と言い出席者を絶句させている。国のトップの発言としては、真に非礼極まりないもので信じがたい。

 また以前には、日本人の平均寿命が延び高齢者の比率が高いことに対して「(年を)取ったやつが悪いみたいなことを言っている変なのが一杯いるが、それは間違いで子供を産まない方が問題なのだ」等と述べたこともある。

 日本の労働環境や個々の家庭の事情などを考慮せず、責任を女性に押し付けるような配慮に欠いた発言を不用意に口走知ってはばからない。ならば昨秋に健康上の理由で退陣した安倍前首相(66)夫妻はどうなのだろう。昭恵夫人(58)との間に子供がないのは、昭恵夫人の責任なのか、と問いたくなる。

安倍晋三前総理と明恵夫人©Casa Rosada (Argentina Presidency of the Nation)
安倍晋三前総理と明恵夫人©Casa Rosada (Argentina Presidency of the Nation)

 日本からの国会中継を見ると、いつも麻生氏は目をつむって下を向いており、あたかも居眠りしているかに見える。だが本人は「重要なことはちゃんと聞いている」とのこと。二階氏も「かに見える」ことに於いては筆頭格だが、80歳も過ぎればついうとうとするのは無理ないこと。 

 だが彼らは敗戦後の日本経済を支え、昭和と言う時代を生き抜き抜いて来た戦士である。それは有難いことだが、男中心のぬくぬくとした環境で培ったその時代の男性たちのメンタリティーは、恐らく森氏と似たり寄ったりのような気がしてならない。

 そんな時代の変化についていけない政治家たちが、令和の今も日本の政治を牛耳ってはばからないのを見ると、何やら明るい未来は見通せず暗澹たる気持ちになる。

日本女性の自己肯定感

 だが一方、女性の政治家を増やすことに関して衆議院議員の野田聖子幹事長代行は、「衆議院の女性比率が30%になるのまでには3回の選挙で段々と増やして行くと10年はかかるのではないか」とみている。候補者の少ない理由の一つは、日本社会の女性に対する過小評価であると同時に、日本女性特有の自己肯定感の低さを指摘する。

 最近はテレビのニュース番組でアンカー・ウーマンを務める女性も増えており、皆一様にお行儀が良く奥ゆかしい。しかしテーブルの下で足を組むなどはご法度なのか、リラックスして政治経済に関する自分の意見を言うなどの自由な雰囲気はなく一律の感が免れない。一方お笑い番組になると、トコトン下品になって目に余るのだが、このギャップは一体何なのかと考えさせられる。

カナダの場合

 一月になりアメリカのバイデン/ハリス新政権を支える29人の閣僚の内12人が女性であることが大きな話題になった。だがカナダでは、すでに2015年に自由党のジャスティン・ツゥルードー氏が44歳の若さで首相に選出された際には、37人の閣僚の半分にあたる18人を女性にした。「何故?」の質問に「だって今は2015年でしょ?」とこともなげに返事した。それはあたかも「どうしてそんなことを聞くの?」と言わんばかりであったことが清々しかった。

2015年に自由党のジャスティン・ツゥルードー氏が44歳の若さで首相に選出された際には、37人の閣僚の半分にあたる18人を女性にした。© Government of Canada

 昨今よく耳にするのは「人生100年時代」と言う言葉である。となれば麻生氏、二階氏などの政治家、また森氏の辞任宣言直後に、渦中の本人から後釜の会長にと打診されものの人事の不透明さを指摘されて辞退した川淵三郎氏(84)、加えて後任人事を決める「候補者後任委員会」の御手洗富士夫会長も84歳。揃いも揃っての80代。思わず「お見事!」と言わざるを得ない。

御手洗冨士夫氏 Canon President Fujio Mitarai visits the Okinawa Institute of Science and Technolo
御手洗冨士夫氏 Canon President Fujio Mitarai visits the Okinawa Institute of Science and Technology (5 March 2015)

 だがやはり若者を中心としたオリンピックと言う世界のスポーツ祭典には、(2月16日現在まだ審議中であるが)それに相応しいもう少し若い活力のある人物を選ぶべきかと。辞任した森氏は、テレビの画面でも老人特有の涙目を常にしばたたせていたのがはた目にも分かり気になったものだ。

 もちろん「若ければよい」と言うものでは決してない。だが政治家や経済人等など、上り詰めて今は権力の座にあるのなら、それにしがみ付くのではなく、その体験によって得た叡智を若い後輩の指導のために使うことは出来ないものか。

これからの日本

 政治が置き去りにしてきたがために一気に噴き出し、消すことの出来ない大きな「シミ」を残した今回の男女格差問題。どの国も一朝一夕では解決できない課題を抱えているのは同じだが、日本は今後この「シミ」を増やすことなく努力する必要性を強く感じる。

 加えて、選択的夫婦別姓の導入、男性の育児休暇取得、同性婚の推進、二重国籍の容認、移民受け入れ問題等など、柔軟な姿勢で臨まなければならない課題は山積みである。

 社会/家族形態の変化や生活様式の多様化にしっかりと目を向けて、国民の意識の動向を見極める目をこれからの政治家は是非養って欲しいものだ。

PS 東京オリンピック・パラリンピック大会組織委員会は18日に橋本聖子氏を新会長に選出。

東京オリンピック・パラリンピック大会組織委員会の会長に就任した橋本聖子氏 ©内閣官房内閣広報室 

サンダース宮松敬子 
フリーランス・ジャーナリスト。カナダに移住して40数年後の2014年春に、エスニック色が濃厚な文化の町トロント市から「文化は自然」のビクトリア市に国内移住。白人色の濃い当地の様相に「ここも同じカナダか!」と驚愕。だがそれこそがカナダの一面と理解し、引き続きニュースを追っている。
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