229「下さい」と「ください」

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外から見る日本語

 コロナパンデミックもすでに一年半近く、ようやく規制もだんだん緩くなり、少し明るい光も、でもコロナ禍以前のように気楽に会えるのはまだ先の感じ。なかなか会うことができず、生徒たちとは、主にメールで連絡し合っている。日本語上級者にとって、メールは書き方のいい勉強になるので、よく送ってくる。

 ある生徒はときどき日記を添付して、「先生、読んで下さい。間違いを訂正して下さい」など、そしていつも最後に「ご自愛下さい」である。敬語にも興味があり、とても頑張っている上級者だが、この「下さい」の漢字が気になったので、「下さい」は「ください」とひらがなで書いてください、とメールを入れたら、これぐらいの漢字は書けます、である。うーん、なるほど、さて、どのように説明しようか…。

 この「ください」には二つの使い方があり、漢字の「下さい」と、ひらがなの「ください」には違いがある。一つは命令形「くれ」の丁寧な言い方として、例えばレストランなどで「お水をください」や「コーヒーを下さい」など、この場合は漢字の「下さい」を使っても問題なし。もう一つは例えば「食べてください」や「お座りください」などで、本来の「くれる」の意味はなく、補助的な動詞であり、この場合は「ください」とひらがなで書かなければダメという決まりがある。

 これは文化庁の法令として1981年(昭和56年)に定められ、その後も改定され、公文書やビジネス文書ではひらがな書きとなり、日本語教育も「ひらがな」で教えている。

 しかし、こんなこと我々日本人、特にシニア世代はもちろん学校で教わっていない。でも母語として、読み物などで何となく身についている感じもする。いずれにせよ、文化庁は常用漢字の設定とも絡んで、ひらがな表記を重んじており、個人差もあろうが、確かに「ひらがな」に柔らかさや親しみを感じる人も多いのでは…。

 その上級者には、A「カタログを下さい」(英語のgive) とB「カタログをご覧ください」(英語のplease) の違いを教えて、Aは「下さい」と漢字でもOKだが、ひらがなのほうがいい感じ。Bは「ください」とひらがなで書くルールがあるから、漢字を使う必要なし、と説明した。「ご自愛下さい」と書いてあれば、「はい、ご自愛あげますよ」と突っ込みを入れたら、このジョークはなかなか分ってもらえなかった。

 でもこの決まりは公文書などに対するものであり、個人のメールなどは関係なし。「ご注意下さい」のように漢字のほうがいい感じ、と思う人はノープロブレム。でも相手がどう感じるか…、やはり、「ひらがな」で書くほうが無難である。ただ、ひらがなで書こうとしても、入力のとき、漢字変換になってしまう恐れがあるので要注意。

 その上級者から、はい、先生のジョーク「理解出来ました」、でも「理解できました」のほうがいいですね。こんなメールが入り、うれしくなってしまった。「ひらがな」に乾杯。

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