164 「笑い」の効果 その1 

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~認知症と二人三脚 ~

ガーリック康子

 一日平均、小学生で300回、20歳の人で20回、70歳になると2回 。男性より女性のほうが、また、若ければ若いほど多い。

 これは、私たちが声を出して笑う回数です。

 「笑いは百薬の長」ということわざ通り、「笑い」が健康に良いということは、これまでも経験的に何となくわかっていました。しかし、しばらく前まで、その科学的な証拠がほとんどありませんでした。近年、この「笑い」についての研究が進み、いろいろな健康効果がわかってきました。その効果には次のようなものがあります。

(1)免疫力アップ。私たちが笑うと、免疫のコントロール機能を司る間脳に興奮が伝わり、情報伝達物質の神経ペプチドが活発に生産されます。このペプチドが、血液やリンパ液を通じて体内を巡り、ウィルスやがん細胞などを攻撃する免疫細胞である、ナチュラルキラー細胞(NK細胞)に付着し、その働きを活発にします。その結果、免疫力が高まります。

(2)血行促進。笑っている時の呼吸は、深呼吸や腹式呼吸と同じような呼吸で、体内にたくさんの酸素が取り込まれ、血行が促進します。また、笑うと心拍数や血圧が上がり、酸素の消費量が増えるとともに、カロリーの消費量も増え、新陳代謝も活発になります。

(3)自律神経のバランス調整。笑うことにより、起きている間優位になっている交感神経が促進し、その後、急激に低下して副交感神経が優位になり、リラックス効果をもたらします。このふたつがバランスよく保たれ、自律神経を安定させます。

(4)幸福感と鎮静・鎮痛作用。笑うと、脳内ホルモンである「エンドルフィン」が分泌されます。このホルモンは、幸福感をもたらす他、鎮痛・鎮静作用もあります。

(5)筋力アップ。大笑いすると、いつもより腹筋、横隔膜、肋間筋、表情筋などがよく動くため、これらの筋肉を鍛えることになります。

(6)脳の働きの活性化。笑うと、記憶を司る脳の「海馬」が刺激され、記憶力が上がります。また、笑うことにより、脳波の中でもアルファ波が増えて脳がリラックスし、意思や理性を司る大脳新皮質に流れる血流が増え、脳の働きそのものが活発になります。

 「笑い」は、人間特有の行動で、高次脳機能のひとつの指標として注目されています。通常、面白いことを聞き、その内容を即座に理解した直後の反応が「笑い」となります。高次脳機能のひとつである認知機能が衰えてくると笑えなくなるのではないかという疑問を抱いた研究者が、脳の機能と「笑い」との関係を調べてみると、笑っていない人ほど、認知機能が低下していることがわかりました。さらに、認知機能が低下しているから笑えないのか、笑わないと認知機能が低下するのか、どちらが先かの因果関係を調べたところ、年齢とともに笑う回数が減っていくこと、笑わない人ほど認知機能が低くなりやすい傾向があることがわかりました。また、認知機能が正常な人を調べると、笑わない人から将来認知症になっていく傾向があることもわかりました。

 この研究は、大阪府立健康科学センターが40年以上の長期間検診を続けてきた、大阪府のある地域の住民を対象に行われました。2007年度の検診を受けた地域住民2,516人を、普段笑う頻度を質問紙により4段階評価するとともに、生活習慣、疾病の有無等についての問診・検査が行われました。また、対象者のうち、65歳以上の男女985人については、物忘れ等の認知機能低下に関連した症状についての調査も行われました。結果の解析は、受診者全員について、「笑い」の頻度と認知機能低下の症状との関連が検討され、さらに、同じ検診で認知機能の低下が見られなかった783人について、「笑い」の頻度と1年後の2008年の認知機能低下の症状との関連が検討されました。

 その結果、ほぼ毎日声を出して笑う頻度は、男性で約40%であったのに対し、女性では約54%で、女性のほうが普段、声を出して笑う頻度が多く見られました。笑う頻度は、年代が上がるにつれて少なくなりました。「笑い」の頻度と認知機能の評価にあたり、「物忘れがあると言われる」、「自分で電話番号を調べて電話をかけることをしない」、「今日の日付がわからない時がある」、という3項目のいずれかにあてはまると認知機能が低下していると定義したところ、全体の25%の人に認知機能低下があると判断され、年代が上がるにつれ、その割合が高くなりました。ほどんど笑う機会がない人は、毎日笑う人と比較して、認知機能の低下の起こりやすさが2.15倍でした。また、男女ともに、うつ病を訴える人ほど笑う頻度が少ない傾向にありました。さらに、野菜の摂取量が少ない人ほど、笑う頻度が少ない傾向も見られました。男性では、喫煙者に笑う頻度が少なめというように、「笑い」の頻度と生活習慣やストレスとの関連も見えてきました。

 では、「笑う」機会を増やすにはどうすればいいのでしょうか?

(続く)

参考

「認知症予防を目的とした笑いの効果についての実践的研究」
代表研究者:大平哲也(大阪大学大学院医学系研究科公衆衛生学准教授)(研究当時)

「笑いの頻度と認知機能との関連についての横断・縦断研究」
大阪府立健康科学センター
主任研究者:大平哲也(特別研究員・大阪大学公衆衛生学准教授)(研究当時)

いっせいの大笑い「笑いヨガで大笑い/健康教室で大笑い」
Lucky FM 茨城放送

「“笑い“がもたらす健康効果」
カンタン健康生活習慣
サワイ健康推進課

https://kenko.sawai.co.jp/healthy/200908.html

*当コラムの内容は、筆者の体験および調査に基づくものです。専門的なアドバイス、診断、治療に代わるもの、または、そのように扱われるべきものではないことをご了承ください。

ガーリック康子 プロフィール

 本職はフリーランスの翻訳/通訳者。校正者、ライター、日英チューターとしても活動。通訳は、主に医療および司法通訳。昨年より、認知症の正しい知識の普及・啓発活動を始める。認知症サポーター認定(日本) BC州アルツハイマー協会 サポートグループ・ファシリテーター認定。