169 ワクチン接種と「本人の同意」

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~認知症と二人三脚 ~

ガーリック康子

 世界保健機構(WHO)が世界初の新型コロナウイルス感染症の症例を発表してから、もうすぐ2年。ロックダウンが終わった後も、いろいろな規制の強化や緩和を繰り返し、マスク着用が日常生活の一部になって久しくなります。その間、驚異的なスピードでワクチンが開発され、完全接種率は、世界平均でおよそ40%、カナダでは、人口の75%近くが2回の接種を受けています。(Our World in Data )

 新型コロナウイルス感染症は、感染症そのものの他に、合併症も引き起こします。合併症を発症する大きなリスク要因は、年齢と基礎疾患で、認知症を発症している人の場合、これらのリスク要因がある傾向が高くなります。特に年齢は、認知症を発症する最も大きなリスク要因でもあります。カナダでは、85歳以上の4人に1人が認知症を罹患しており、そのうちの90パーセントの人に、糖尿病や腎臓疾患など、少なくともひとつの慢性疾患があります。カナダ統計局の最近の死亡に関するデータでは、新型コロナウイルス感染症による死亡者のうち、女性の42%、および男性の33%の人の死亡診断書に、認知症を罹患していることが記されているということです。(Alzheimer Society of Canada )

 認知症が進行し、中期および後期になると、記憶力、コミュニケーション能力、見当識をはじめとするさまざまな認知機能が低下します。そのため、ソーシャル・ディスタンスの確保やマスクの着用、自己隔離など、感染予防のための対策を自ら行うことが難しくなります。ですから、感染を防ぐためには、予防接種がとりわけ重要になります。また、高齢者介護施設等でも、認知症の人を含め、多くの人が同じ施設内で生活しているため、集団感染によるクラスター発生が起こりやすく、ワクチン接種が重要な感染予防策とされています。

 さて、ワクチン接種を受ける際、本来であれば「本人の同意」が必要です。しかし、その人の健康状態により、本人の意思確認ができない場合があります。例えば、認知症の症状が進み、判断能力が低下していたり、意思疏通ができなければ、同意を得ることができません。代理の意思決定者が、本人の代わりに判断や同意をすることになります。それぞれの状況によって、季節性のインフルエンザや、その他のワクチン接種同様、家族やかかりつけ医、高齢者施設の従事者など身近な人の協力を得て、本人の意向を酌み取る必要があります。

 ところが、接種を希望していても受けに行けないというケースも出てきているようです。自宅で暮らす介護度の高い人や、体力が衰えた一人暮らしの高齢者など、接種会場への移動が困難な人がいるのです。例えば、普段は寝たきりの人には接種会場への移動は難しく、なんとか車椅子で移動できたとしても、著しく体調を崩すことが考えられます。また、介護を必要とするほどではないものの、足腰が弱っている人にとっては、歩ける距離に限度があります。近くに送迎を頼める身内がいなければ、公共交通機関やタクシーなどで移動することになります。住んでいる場所によって、これらの手段を使っても、簡単には行けないこともあるかもしれません。

 希望して既にワクチン接種を終えた人、接種をためらっている人、接種を希望しない人。その選択は様々です。しかし、ワクチン接種だけでなく、どのような感染予防対策を講じても、感染リスクが完全に「ゼロ」になることはありません。複数の対策を合わせることで、「うつらない、うつさない」ことに努め、リスクを「ゼロ」に近づけることが、今の私たちにできることではないでしょうか。

参考:
Our World in Data
https://ourworldindata.org/covid-vaccinations?country=~CAN

Alzheimer Society of Canada
ttps://alzheimer.ca/en/whats-happening/news/covid-19-vaccination-rollout

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*当コラムの内容は、筆者の体験および調査に基づくものです。専門的なアドバイス、診断、治療に代わるもの、または、そのように扱われるべきものではないことをご了承ください。

ガーリック康子 プロフィール

 本職はフリーランスの翻訳/通訳者。校正者、ライター、日英チューターとしても活動。通訳は、主に医療および司法通訳。昨年より、認知症の正しい知識の普及・啓発活動を始める。認知症サポーター認定(日本) BC州アルツハイマー協会 サポートグループ・ファシリテーター認定。