第83回 移転が「心躍る」イベントに

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 今日は、ワクワク系マーケティング実践会(このコラムでお伝えしている商売の理論と実践手法を実践する企業とビジネスパーソンの会)会員のダンススタジオ経営者からいただいたご報告を題材にしよう。

 今回同店は、レッスンに使っているスタジオを移転することとなった。といっても同じビル内でのことだが、そのことを顧客に伝えると「楽しみですね!」の反応が。店主はこう思った。「コロナ禍で良い・うれしいニュースがあまりない中で、うちの生徒さんにとっては、『スタジオが新しくなる』ということが『心躍るイベント』になっているのかも…」。そこで早速この「移転」を「ワクワクイベント」として行っていくこととした。次に、彼女らが行っているイベントを列挙しよう。

 ワクワクイベント1:スタジオの公式LINEアカウントで新スタジオの工事の進み具合を投稿。そこでは、不動産の担当者や、今回工事を行ってくれる大工さん(実は生徒)らも紹介。

 ワクワクイベント2:新スタジオ工事現場見学会を実施。同じビル内での移転であるため、レッスン終了後に工事現場に案内するというやり方で。

 ワクワクイベント3:現スタジオの掲示板に新スタジオのコーナーを設けオープン日を掲示、そこでカウントダウンを実施。

 ワクワクイベント4:現在自分がアロマを学んでいることから、「スタジオの香り」を作り、オープン日に生徒たちに、オープン記念として渡す。(予定)

 今列挙したものを見てお分かりになると思うが、どれも大げさではなく、ささやかなものだ。しかし生徒たちには大好評。特に公式LINEアカウントでの、「ダンススタジオの命」である床張り現場の動画投稿は、最も反響が大きかったという。

 ワクワク系では従来この手の〝顧客の巻き込み〟が盛んだが、ここでの学びは2つある。1つは、今回のような「過程の共有」がこれから一層、「サービス」として重要になる、もっと言えば「提供している価値」そのものになるということだ。今回の例で言えば、従来ダンススタジオが提供しているサービスはレッスンでありその場であるスタジオだが、ここに「スタジオ移転を共に楽しむ」などのものも加わってくるということだ。

 そしてもう1つは、この「過程の共有」が「価値」となるためには、そこにコミュニティがあることが前提であることだ。生徒らにとって今回の移転が「心躍るイベント」である根っこには、生徒が単なる「生徒」でなく、このスタジオに絆を感じていることがある。ゆえに、床張りまでもが心躍るものとなる。その上に過程を共有していくことが、また顧客との絆を深くしていくのである。

 
小阪裕司(こさか・ゆうじ)
プロフィール 

 山口大学人文学部卒業。1992年「オラクルひと・しくみ研究所」を設立。
 
 人の「感性」と「行動」を軸としたビジネス理論と実践手法を研究・開発し、2000年からその実践企業の会「ワクワク系マーケティング実践会」を主宰。現在全都道府県(一部海外)から約1500社が参加。

 2011年工学院大学大学院博士後期課程修了、博士(情報学)取得。学術研究と現場実践を合わせ持った独⾃の活動は、多⽅⾯から⾼い評価を得ている。 

 「⽇経MJ」(Nikkei Marketing Journal /⽇本経済新聞社発⾏)での540回を超える⼈気コラム『招客招福の法則』をはじめ、連載、執筆多数。著書は最新刊『「顧客消滅」時代のマーケティング』をはじめ、新書・⽂庫化・海外出版含め40冊。

 九州⼤学非常勤講師、⽇本感性⼯学会理事。