171 子ども達への「認知症」教育

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~認知症と二人三脚 ~

ガーリック康子

 「認知症」は、高齢者だけでなく、若い人でもなる疾患であることが、社会的に認識されつつあります。小中学校に通う年齢の子ども達の祖父母や、30代、40代の両親でも「認知症」と診断される可能性があります。

 そうなった時、子ども達は「認知症」による家族の変化についていけるでしょうか? 周りの大人は、 「認知症」のことを、子ども達にどのように説明すればいいのでしょうか?

 今年7月に開催された「アルツハイマー病協会国際会議 2021年」で、世界の「認知症」になる人の数は、2050年までに、2019年の推定人数のほぼ3倍の、1億5280万人以上になるという推計が発表されました。この研究を行ったチームは、さらに、 喫煙、高肥満度指数(BMI)、高空腹時血漿ブドウ糖に起因する認知症患者の数を、これらのリクス因子と認知症有病率の間の予想される関係を用いて予測しています。これらの予想される変化が原因となり、2019年から2050年の間に、認知症患者数が世界で680万人増えるとしています。

 もうひとつの研究では、 予想される教育水準の変化が、同じ期間に、世界で620万人の認知症患者の減少に繋がるという、反対の結果が出ています。この相反する傾向がバランスを保ちながら、「認知症」患者の数が増えていくことが予測されています。

 「認知症」の患者数が増え続ける中、将来、「認知症」になっても安心して暮らせる地域社会を作ることが、緊急の課題となっています。しかし、「認知症」と診断される人の数が増加する一方で、「認知症」に詳しい専門家の数も同じように増えない限り、行政や介護福祉部門、医療機関に頼るだけでは、「認知症」の人を支えるには十分な支援が行えなくなります。そのため、生活の場である「家庭」で、一緒に日々を過ごす家族による「認知症」の正しい理解が、さらに重要になると考えられます。これは、介護をする家族が介護のすべてを担うということではなく、「認知症」と診断された人やその家族が、それまで通り、安心して地域で生活し続けられるように、より幅広い世代の人の「認知症」への深い理解が求められるようになるということです。

 特に、将来、地域の社会を支えることになる学齢期の子ども達の世代が、「認知症」についての正しい知識を持ち、理解することにより、安心して生活できる地域社会の将来を担う重要な存在となります。「認知症」についての教育の対象も、大人だけでなく、学齢期の子ども達に、学校教育の一環として「認知症」について知る機会を設けることで、「認知症」の普及啓発活動の裾野を広げることになります。これには、日頃、子ども達と接する機会の多い学校の先生も関わることで、先生達自身も知識を深めることができます。

 30代や40代で、「若年性認知症」と診断されるケースはありますが、多くの場合、「認知症」と診断されるのは高齢者です。「認知症」の高齢者の介護者となるのは、主に配偶者や 「子ども世代」である娘や息子です。しかし、直接介護に関わらなくとも、学齢期の孫やひ孫の「孫世代」の子ども達が 、「認知症」について正しく理解していれば、「認知症」に対する必要以上の恐怖心や不安を感じることはないはずです。そうすれば、例え、自分の家族である祖父母が「認知症」と診断されても、祖父母の人間としての尊厳を尊重し、人間らしい関わりを保つことができるでしょう。また、「孫世代」の子ども達が「認知症」について学び、学んだことを家族に伝えることで、将来、介護者となる可能性のある「こども世代」の親が「認知症」を正しく理解するきっかけにもなります。家族が「認知症」になると、その診断を受けた本人の生活だけでなく、家族の生活にも大きな変化をもたらします。そんな状況の中で、子ども達が間接的に介護者をサポートできるようになるかもしれません。

 「認知症と診断されたら、人生終わり」と多くの人が考えていた時代は、とっくに終わっています。

 正しい知識と理解があれば、誤解や偏見による先入観から、敬遠したり、差別とも言える対応をしたりすることなくなっていくはずです。

参考
「アルツハイマー病協会国際会議 2021年」
https://www.alz.org/aaic/releases_2021/global-prevalence.asp

*当コラムの内容は、筆者の体験および調査に基づくものです。専門的なアドバイス、診断、治療に代わるもの、または、そのように扱われるべきものではないことをご了承ください。

ガーリック康子 プロフィール

 本職はフリーランスの翻訳/通訳者。校正者、ライター、日英チューターとしても活動。通訳は、主に医療および司法通訳。昨年より、認知症の正しい知識の普及・啓発活動を始める。認知症サポーター認定(日本) BC州アルツハイマー協会 サポートグループ・ファシリテーター認定。