237 ☆「お湯」に乾杯 !

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外から見る日本語

 コロナパンデミックも丸二年、自粛生活もすっかり板に付いてしまった。家に閉じこもる時間が長いので、自然とお風呂に入っている時間も長くなっている感じ。湯船につかりながら、のんびり物思いにふける。こんなことが楽しみの一つになってしまった。

 そんな折、日本語上級者との「湯上り談議」を思い出した。コロナ騒動の前だが、ある飲み会で「湯上りにはビールが一番」こんな表現を話題にした。最初はキョトンとしていたが、「湯上り」を「風呂上がり」と説明すると、すぐ納得である。ここカナダは「風呂」よりは「シャワー」の文化であり、「風呂上がり」などピンとこないが、彼は日本で温泉に何回も入った経験があり、この「湯上り」に、素敵な表現ですね、と大いに興味を示した。

 この「湯」だが、日本語教師としては少々やっかいな言葉である。上級者から「お湯をわかす」は大変ヘンです、お湯をわかすと水蒸気になります、と笑いをまじえて問いかけられる。うーん、「湯」は英語で「hot water」であり、「お湯を沸かす」は直訳すると「boil hot water」になり…、確かに不自然である。

 実は、この「湯」は日本語だけの独特な言葉。いくつかの国の言葉を調べて驚いてしまった。英語は「hot water」、フランス語は「eau chaude」のごとく、他の国の言葉も、すべて「水」に「熱い」などの形容詞が付いた言葉になっている。中国語でも「熱水」であり、「湯」はスープの意味を表わす。

 なぜ日本語だけ「水」を含まない「湯」という単独の言葉が出来たのか、今まで考えたこともなかったが、とても不思議である。川で水浴びをしていて、急に温かい水が流れてきた。気持ちいい。これを思わず「湯」と…。この「湯」は火山国、温泉豊かな、日本ならではの独特な言葉である…と、確信する。

 日本人は「菖蒲湯(子供の日)」や「ゆず湯(冬至の日)」そして「茶の湯」など、この「湯」に特別な想いを感じる人が多い。だから「水をわかす」よりは「お湯をわかす」のほうがしっくり、心和むのである。「お湯」に乾杯。でもちゃんと使い分けている。「やかんに入っているお湯をわかす」とは言わない。確かに、その通り。 正に言葉が持つ文化である。上級者に「湯」について、こんな説明をすると、大いに納得してくれて、うれしい気分になる。ただ、歳も70後半になると、「湯上りには牛乳が一番」になりつつあり、何となく寂しさも感じる今日この頃である。

 

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