177 「変えられない認知症のリスク−遺伝子」

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~認知症と二人三脚 ~

ガーリック康子

 前回、前々回と、私たちが生まれ持ったもので、自分の意思では変えることができない「認知症」発症のリスク要因として、性差による要因についてお話ししました。その他に変えられないものとして、遺伝子に関わる要因があります。その典型的な例が、「家族性アルツハイマー型認知症」です。

 ご存知の通り、「アルツハイマー型認知症」は、「認知症」の中で最も発症する割合の多い「認知症」です。「アルツハイマー病」が原因で発症し、その多くは、70歳を超えてから発症します。しかし、中には40代から50代、早い場合は20代という若い時期に発症する場合もあります。その多くは、遺伝的な「アルツハイマー病」の素因を持っていると考えられており、「家族性アルツハイマー病」と呼ばれています。発症する率は稀で、すべてのケースの5%以下とされています。

 これまでに、「家族性アルツハイマー病」の診断を受けている人には、3種類(プレセニリン1、プレセニリン2、アミロイド前駆蛋白質【APP】)の遺伝子に変異が比較的多く見られることが明らかになっています。両親のどちらかにこれらの遺伝子変異があると、その子供は、2分の1の確率で発症します。ただし、「家族性アルツハイマー病」の約半数のケースでは、これらの遺伝子に変異が認められていますが、残りの半数では、はっきりとした特定の遺伝子の変異は認められていません。しかし、祖父母、両親、兄弟、親戚のおじさんやおばさんになど、2世代続けて家族が「アルツハイマー病」を発症していたとしても、発症の年代が70代以降であれば、「家族性アルツハイマー病」である可能性は低いと考えられています。

 「アルツハイマー型認知症」は、「アミロイドβ蛋白質」という老廃物が脳に蓄積し、神経細胞に障害を与えることが原因で発症することがわかっています。「アミロイドβ蛋白質」の蓄積や凝集に関わる物質のひとつが、「アポリポ蛋白質E」です。これを司る「APOE(アポイー)遺伝子」には、おもに、「ε2」、「ε3」、「ε4」の3種類があり、ふたつ一組で遺伝子型を構成しています。この3種類のうちの「ε4」の有無が、「アルツハイマー病」の発症に大きく関わります。「ε4」を持たない遺伝子型に対し、「ε4」をひとつ、ないしふたつ持っている遺伝子型の「アルツハイマー病」発症リスクは、約3倍から約12倍高くなるとされています。これが、「孤発性アルツハイマー病」です。

 遺伝子に関わる「認知症」発症のリスク要因として、「ダウン症」もそのひとつと考えられています。「ダウン症」を持って生まれた人の場合、「若年性アルツハイマー病」を発症する確率が高く、早い場合は、20代ですでに認知症と診断される場合もあります。 その原因のひとつとして、「アミロイドβ蛋白質」を生産する「APP遺伝子」が過剰にあることが考えられています。「APP遺伝子」は21番染色体上にあり、通常2本ですが、先天性の染色体異常症である「ダウン症」の場合、21番染色体が3本(トリソミー21)あるため、脳内には、「アミロイドβ蛋白質」がより多くなります。そのため、65歳以上の「ダウン症」の人が「認知症」を発症する時期は、「ダウン症」でない人よりも早く、その75%を超える割合で「アルツハイマー型認知症」を発症していると言われています。

 他に、人種の違いも認知症の発症のリスク要因と考えられています。米カリフォルニア大学の研究チームが、同じ地域に住む同一条件の大規模集団で調査し、人種による発症リスクに差があることを裏付け、2016年に、米アルツハイマー協会誌(Journal of Alzheimer Association)に発表しています。この調査結果は、人種を6つのグループに分け、65歳になってから25年以内に認知症を発症する確率を数値化しています。それによると、アフリカ系、先住民、ヒスパニック系、白色系、アジア系、太平洋諸島系の順でリスクが低くなります。この分野は、今後、さらに調査・研究が期待されます。

参考:
“Genetic testing and Alzheimer’s disease”
Alzheimer Society of Canada
https://alzheimer.ca/en/about-dementia/what-alzheimers-disease/genetic-testing-alzheimers-disease

「アルツハイマー病と遺伝について」
認知症予防財団
https://www.mainichi.co.jp/ninchishou/frontness/008.html#:~:text=

「ダウン症患者さん由来の神経細胞からのアミロイドβ分泌は抗酸化剤で抑止される」
京都大学iPS細胞研究所 CiRA
https://www.cira.kyoto-u.ac.jp/j/pressrelease/news/210831-000000.html#:~:text=

”Landmark Study Finds Dementia Risk Varies Significantly Among Racial and Ethnic Groups”
University of California San Francisco
https://www.ucsf.edu/news/2016/02/401576/landmark-study-finds-dementia-risk-varies-significantly-among-racial-and-ethnic

*当コラムの内容は、筆者の体験および調査に基づくものです。専門的なアドバイス、診断、治療に代わるもの、または、そのように扱われるべきものではないことをご了承ください。

ガーリック康子 プロフィール

 本職はフリーランスの翻訳/通訳者。校正者、ライター、日英チューターとしても活動。通訳は、主に医療および司法通訳。昨年より、認知症の正しい知識の普及・啓発活動を始める。認知症サポーター認定(日本) BC州アルツハイマー協会 サポートグループ・ファシリテーター認定。