178 「私もなるかも?」

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~認知症と二人三脚 ~

ガーリック康子

 母が「認知症」と診断されたのは、80を超えたばかりの頃でした。しかし、実際に「認知症」の兆候が出始めたのは、そのずっと前と確信しています。症状はあっという間に進行し、診断を受けて数年後に母は亡くなります。

 亡くなった時の母は寝たきりで、繰り返す「誤嚥性肺炎」のため、食事を摂ることが危険と判断され、栄養は静脈栄養。 途中、見つかった病気も、体力が著しく衰えていたため、確実な診断のための検査さえできないまま、見る影もなくやせ細り、衰弱して亡くなりました。 直接の死因は「認知症」ではありません。

 「認知症」はその種類や個人差により、症状は異なりますが、いずれの場合も認知機能が著しく低下していきます。合わせて、身体的機能も低下し、食事や排泄を含む生活全般に渡り、介護が必要になります。診断を受けた時点での慢性疾患の有無や健康状態により、予後に個人差があり、「認知症」の診断後の生存期間については、調査・研究により見解が異なります。診断がついた時点での介護年数は平均6年から7年、診断後の平均余命は約5年など、年数はさまさまですが、 平均して、およそ5年から12年が生存期間とされています。

 実は、次第に認知機能が衰え、その後、寝たきりになり、最終的に衰弱死することよりも、「認知症」と診断された人の直接の死因の多くは「肺炎」です。「認知症」が進行することにより、嚥下機能が低下し、「誤嚥性肺炎」を起こしやすくなるためです。「肺炎」はその都度、回復しますが、根本的な原因となる嚥下機能を改善することができず、「誤嚥性肺炎」を繰り返すうちに、それが原因で亡くなります。このような場合、死因は「老衰」や「誤嚥性肺炎」とされるため、統計上は「認知症」の順位は決して高くはありません。

 さて、年をとればとるほど、認知症の診断を受ける確率も高まることと合わせて、「認知症」は誰がなってもおかしくないことは、一般の人も知っている「定説」になりつつあります。「家族性認知症」の場合を除き、「認知症」は遺伝しないと言われていますが、親が「認知症」と診断されている人は、漠然とした不安を抱えているはずです。

 まるでその不安を裏付けるような研究報告があります。親が80歳未満で「認知症」を発症した人では、本人も「認知症」になるリクスが1.6倍高くなるというものです。この研究は、米ハーバード大学とオランダのエラスムス医学センターの合同チームがまとめたもので、2017年4月25日に、神経学の専門誌「Neurology」(電子版)に発表されました。

 この研究チームが分析したのは、「ロッテルダム研究」(高齢者を中心とした家族の健康についての長期的な研究)の データです。研究を行った2年間(2000年〜2002年)に認知症と診断されていない中高年男女2,087人(平均年齢64歳、女性55%)を対象に、2015年までに認知症を発症したかを調べ、発症した人の両親の「認知症」の病歴との関連を調べています。

 その結果、(1) 親が「認知症」になると、そうでない場合に比べ、子どもが「認知症」になるリスクが 67%高まる、(2)特に親が80歳未満で「認知症」になった場合、子どもが「認知症」になるリスクが1.6倍になる、(3)親が80歳以上で「認知症」になった場合は、子どもが「認知症」になるリスクは1%高まるに留まる、(4)「認知症」になった親の男女差は、子どもの発症に影響しない、ということがわかりました。

 同研究チームは、対象者の脳のMRI検査と両親の脳の画像も調べており、「遺伝要因は不明だが、脳灌流の低下(脳に十分な血流が行き渡らないために起きる脳細胞の機能障害や細胞死)、大脳白質病変(神経繊維が集中する白質部分の血流障害による異常)、微小脳出血と関係している可能性がある」としています。

 確かに、親子であれば、遺伝的に体質を受け継いでいるかもしれません。しかし、他の病気と同じように、なる時はなります。まだ起きていないことを気に病むより、発症リスクを軽減する努力をするほうがよっぽど予防になる、と私は考えています。

参照:
Parental Family history of dementia in relation to subclinical brain and dementia risk
Neurology
https://n.neurology.org/content/88/17/1642

*当コラムの内容は、筆者の体験および調査に基づくものです。専門的なアドバイス、診断、治療に代わるもの、または、そのように扱われるべきものではないことをご了承ください。

ガーリック康子 プロフィール

 本職はフリーランスの翻訳/通訳者。校正者、ライター、日英チューターとしても活動。通訳は、主に医療および司法通訳。昨年より、認知症の正しい知識の普及・啓発活動を始める。認知症サポーター認定(日本) BC州アルツハイマー協会 サポートグループ・ファシリテーター認定。