第63回 戦争と性犯罪

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 戦争が勃発すると決まって問題になるのが、紛争下で逃げ惑う婦女子への、侵略側兵士による性暴力である。ジュネーブ条約の国際規制には、民間施設や民間人への攻撃は「人道に対する罪」として戦争犯罪に問われる対象になるとある。だが一たび戦闘が開始されれば、この3カ月程のロシア軍のウクライナ侵攻を見ても分かるように、そんな規制はないも等しいかに見える。

 日々目にするニュースには「殺される直前にレイプされていたウクライナ女性たち、遺体から証拠…」「ロシア兵に母親がレイプされ殺される現場を目迎した少年…」「14歳の少女がレイプされ、妊娠…」と言った見出しが飛び交う。

 だが戦争のどさくさにおける性暴力は、単に兵士の「性のはけ口」だけが目的ではなく、民間人や捕虜の戦闘意欲を萎えさせるための武器として実行される場合もあると言う。

 いずれの理由にしろ、ウクライナの人々は晴天の霹靂で日常生活を奪われ、戦場と化した故郷から命からがら避難するだけでも大変なのに、かてて加えて、性暴力の対象になった女性たちの心情は如何ばかりか…。その後例え生き延びたとしても、体験した忌まわしい記憶は永遠に脳裏から離れず、精神的に完全に立ち直れるかの保障はない。

 彼女たちは戦争を、独裁政治を、そしてプーチンをどれ程憎んでいる事だろう…。

戦場での残虐性 

 「戦場での狂気と横暴」といえば、第二次世界大戦の終結直後、満州に侵入して来たソ連(当時の呼称)軍が、引き揚げ船に乗るのを待つ日本からの移住者――多くは満州開拓団の家族たちに行った暴行、強奪、殺戮、特に女性たちへの強姦などは、目撃した人の証言によれば、目を覆う惨状だったと言う。

 また歴史的背景やその他の状況は完全に異なるものの、第二次大戦中当時の日本軍による韓国女性に対する「慰安婦問題」は、終戦から77年が経過した今もくすぶり続けている。

 日時が過ぎるに従って、生き残りの当事者は殆ど亡くなっているものの、それ故に、サポートをする若い韓国人たちの日本に対する政治的、社会的、文化的な背景が複雑に絡み、日韓両国の言い分や要求に食い違いが生じている。つい先日新政権になったユン・ソギョル大統領は、二国間の関係改善に力を注ぐ姿勢を見せているが、今後の出方が注目される。

 だがかく言う韓国も、米国によるベトナム戦争では米国側の要求に応じて派兵し、その際にはベトナム女性を多数強姦したり、その後虐殺したりのケースも多かったと報告されている。このレイプによってベトナム女性が産んだ混血児は「ラダイハン」と蔑称で呼ばれ、その数は5000~3万人にものぼるとの報告もある。だが韓国はベトナムに対し、正式の謝罪はしていないと聞く。

 戦争には付き物のこうした悲劇には、多くの映画制作もなされた。その一つは、女優・映画監督であるアンジェリーナ・ジョリーのボスニア・ヘルツェゴビナ紛争(1992~1995)を描いた作品『In The Land Of Blood And Honey(最愛の大地)』(2011)である。大分古い映画だが、スクリーンを直視出来なかった場面が幾つもあったのを覚えている。

初の戦争犯罪裁判 

 5月15日には「ロシア軍兵士の戦争犯罪裁く初公判、キーウで開かれる」とのニュースが全世界に発信された。被告は21才の戦車部隊所属の若者である。彼は命令に従って、武装していない62歳の民間人に発砲し殺害した疑いがもたれており、もし有罪になれば最高で終身刑になる可能性があると言う。

 もちろん無防備な民間人を狙撃した事には何の言い訳もできない。だが命令に従わなかったなら、彼自身が上官に殺されたかもしれない。どういうバックグランドの若者か知る由はないが、彼も人の子、もし親が存命であるならどんな思いで息子の行く末を見守っているのだろう。

 いずれの戦争でも、その指導者たちが容易に悪魔のようになってしまう恐怖に戦慄を覚えずにいられない。一日も早い終戦を切望する。

ロシア軍によるウクライナへの侵攻は続いている。Photo courtesy of Keiko Miyamatsu Saunders
ロシア軍によるウクライナへの侵攻は続いている。Photo courtesy of Keiko Miyamatsu Saunders

サンダース宮松敬子 
フリーランス・ジャーナリスト。カナダに移住して40数年後の2014年春に、エスニック色が濃厚な文化の町トロント市から「文化は自然」のビクトリア市に国内移住。白人色の濃い当地の様相に「ここも同じカナダか!」と驚愕。だがそれこそがカナダの一面と理解し、引き続きニュースを追っている。
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