242 ☆ 「い抜き言葉」はダメなの?

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外から見る日本語

                                     日本語教師  矢野修三

  昨今のソーシャル・ネットワーキング・サービス(SNS)の進化は誠にすさまじい。人とのコミュニケーションはどんどん便利になるが、メカについていくのも大変である。確かに、どこにいても、いつでも気楽にメッセージが送れ、まるで会っているように話ができる。電話など無い、はるか昔には全く考えられず、会って話すから「会話」なので、そろそろこの漢字「会話」はお払い箱になるのではと、いささか心配である。

 このSNSの登場に伴い、言葉のやり取りにいろいろ変化がみられる。省略文字や絵文字などはどこの国の言語でも同じであろうが、特に日本語はその影響が大きいと言われている。それは「話し言葉」と「書き言葉」がはっきり分かれている言語だから。でもチャットなどは当然「書き言葉」ではなく、「話し言葉」で書くようになり、両者の差がどんどん無くなってきている。

 その一つの例が「い抜き」。本来は「食べている」や「飲んでいる」であるが、「い」を抜いて「食べてる」や「飲んでる」になる、いわゆる「い抜き言葉」である。しかし、この表現は基本的に会話にしか使われないので、「ら抜き言葉」などに比べると、一般的にはあまり知られていない。この「い抜き言葉」、もちろん文法的には間違いであるが、会話の中ではかなり前から広まってきていた。でも文章として目に入ることはなく、あえて問題にする必要もなかったのであろう。

 しかし日本語教師としては、この「い抜き言葉」をかなり意識しなければならない。もちろん生徒には「動詞+ている」と説明して、「食べている」や「飲んでいる」としっかり教えてる、ではなく、教えている。

 でも、スマートフォンのお出ましで、この「い抜き言葉」がいろいろな場面に文字として登場してきた。すると日本語学習者はその違いが気になる。さてその違いは? 個人差にもよるが、我々日本人は、正式な「何を食べているの?」よりも、「い抜き」の「何を食べてるの?」のほうにカジュアルで親しさを感じる人が多いのでは。いかにも。

 乗り物の中でスマホを片手に、「いま向かってるから、待ってて」など、堂々と「い抜き」でメッセージを打っている年配の日本語教師がいる。うーん、最初は教師として「まずいかな・・・」、でも、慣れると便利で楽しんでる、ではなく、楽しんでいる。事実、この「い抜き」は話し言葉のくだけた言い方として、すでに載ってる、ではなく、載っている辞書もある。なるほど。

 明治期の言文一致ではないが、書き言葉の大きな変化期。「スマホのメッセージなどにはノープロブレム、先生も使ってるからね」と、生徒にも教えたほうがよさそうである。

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