Column お薬の時間ですよ

~お薬の時間ですよ 第103回~

 バンクーバー新報読者の皆様、新年明けましておめでとうございます。本年もどうか宜しくお願い申し上げます。

 新型コロナウイルスが世界を騒がすようになって早1年。20世紀に流行したスペイン風邪や香港インフルエンザがそうであったように、新型コロナウイルスも第2波の被害の方が深刻となり、カナダ最大都市トロントを抱えるオンタリオ州では、継続的な感染拡大に伴い、12月26日から全州規模のロックダウンという事態にまでなっています。もちろんBC州でも予断を許さない状況が続いています。

  一方で、2020年10月1日の本コラム掲載記事「コロナワクチンの現実度」(リンク:https://www.vancouvershinpo.ca/column/column-top/2020/10/01/medicine-52-atsushi-sato/)の中で、2020年の年末にも新型コロナワクチンが登場する可能性はゼロではないという話を書きましたが、このストーリーが現実のものとなりました。

 カナダでは、12月9日、米ファイザー社と独ビオンテック社が共同開発した新型コロナウイルスのワクチン(商品名 Tozinameran、開発コードBNT162b2)が承認され、これに続いて12月23日には米モデルナ社のワクチン(商品名Moderna COVID-19 Vaccine、開発コードmRNA-1273)も承認されました。

 従来のワクチンは、その性質から不活化ワクチン、生ワクチン、トキソイドの3種類に分けることが出来ますが(下に解説)、今回新たに承認された2つのワクチンは、いずれも「mRNAワクチン」(メッセンジャーRNAワクチンと読みます) と呼ばれる全く新しいタイプのものになります

 より詳細には、タンパク質の合成の際にウイルスのDNAに書き込まれている遺伝情報を写し取り、この情報を生物の細胞内にあるリボソームに伝える役割を持つメッセンジャーRNA(日本語で伝令RNAと呼ばれることもある)を用いてワクチンが作られました。この開発過程において、標的ウイルスである新型コロナウイルスの遺伝子解析によりヒトに免疫を誘導する部分の遺伝子配列を同定し、これをもとにワクチン用の遺伝子の設計図を作り、同じmRNAが大量生産されました。これがワクチンとして接種され、効率よく細胞内に運ばれると、免疫を作るタンパク質を作りだして疾患を予防します。

 「DNA?RNA?遺伝情報って、一体なに?」と思われる皆さんの気持ち、痛いほど分かります。20年以上前に大学生だった私も、分子生物学という授業でこれらの用語と格闘し、その概念を理解するのに非常に苦労しました。コロナワクチンの要点は、バイオテクノロジーの技術を駆使して、これまでとは異なるタイプのワクチンが作られ、また臨床試験において安全性と有効性を確認されて承認されたものと理解してください

 BC州政府の計画では、リスクレベルに合わせてコロナワクチン接種の優先順位が定められ、今年2月までに介護施設や長期滞在介護施設の居住者とスタッフ、新型コロナウイルス感染者を受入機関の医療従事者等を最優先して接種を行い、また2月から3月にかけては80歳以上の方や長期でホームサポートを受けている方とその介護者等に対して接種が行うものとしています。安全性のデータが限られているため、現時点では16歳未満の方、妊娠中の方、免疫不全の方にはワクチン接種を勧めないともされています。ちなみに、コロナワクチンの予防接種は全て公費負担で行われるため、自己負担はゼロです。(参考資料:BC州政府ウェブサイト「COVID-19 vaccines」 https://www2.gov.bc.ca/gov/content/safety/emergency-preparedness-response-recovery/covid-19-provincial-support/vaccines) 

 では、今やカナダの予防接種のメイン会場ともいえる地域の薬局では、どのようにコロナワクチン接種が行われるか気になる人は多いと思いますので、そのような疑問にお答えします。

 「いつ頃になったら薬局で新型コロナワクチンの接種が受けられるようになるのか?」ということですが、実は優先順位の高いグループ向けのワクチンの入荷時期でさえ、まだよく分かりません。計画を見る限り、春頃には薬局へ入荷されるのではないかと予想しておりますが、保証はありません。

 特に、ファイザー社とビオンテック社が共同開発したワクチンは、超低温で保管する必要があり、このような冷凍庫を全ての薬局が備えることは、あまり現実的ではありません。後から承認されたモデルナ社のワクチンであれば、超低温の保管は不要です。今後新たなワクチンが承認されれば、こちらの方が幅広く使用されるということもあり得ます。

 また、薬局にコロナワクチンの在庫があったとしても、ワクチン接種に必要なシリンジや注射針が確保できない可能性もあります。実際、私の薬局ではクリスマス前の時点で、既に注射針の入荷が断続的になっていました。

 コロナワクチンの集団接種は、各薬局が毎年秋に行ってきた1回きりのインフルエンザの予防接種とは規模が異なりますので、ここにも注意が必要です。多くの薬局が電話やオンラインで予約をとることになると思いますが、オンラインシステムはパンクし、電話もいつ繋がるか分からないといった状況は十分に予想されます。実際、昨年秋のフルショットの予約を取り始めたときに、そのような事態が発生しました。薬局側としてもシステムの改善に努める次第ですが、皆様は我慢強くトライを続けてください。

 現在承認されている2つのコロナワクチンは、3週間間隔で2回の接種が必要です。2回目の接種が必要な頃になっても、まだ1回目の接種を受けていない人が沢山いれば、こちらを優先することになると思います。すると、2回目の予約をとることは1回目にも増して困難を極めることが予想されます。繰り返しますが、我慢強くトライを続けてください。

 暦を先走るようですが、秋になれば、通常のインフルエンザの予防接種も始まりますから、例年にも増して薬局は猛烈に忙しくなることはほぼ間違いありません。薬剤師の数を増やして対応できれば最高ですが、これは一筋縄にはいきません。昨年の春に予定されていた薬剤師国家試験は、コロナ流行拡大のために半年遅れでようやく開催されたばかりです。今年の試験にも少なからず影響がでるものと予想しています。皆様は、常に時間の余裕を持ってリフィルのオーダー等するようにしてください。

 最後に、2020年3月以降、在バンクーバー日本国総領事館から「新型コロナウイルス感染症(COVID-19)にかかる注意喚起」のメールが配信されています。在留届や「たびレジ」に登録されたメールアドレス宛に自動配信されるもので、毎週新型コロナウイルスについてのアップデートや注意事項、また日本の渡航規制関連の情報が、全て日本語で綴られ、個人的にも大変参考にさせて頂いている情報源です。予防接種に関する情報もこちらにアップされていますので、皆様もどうかご参照ください。

 皆様の2021年が明るい年になりますように!

【解説】従来のワクチンの種類

① 不活化ワクチン:ウイルスの活性を失わせたワクチン。例:インフルエンザワクチン、肺炎球菌ワクチン、A型肝炎ワクチン、B型肝炎ワクチンなど。

② 生ワクチン:ウイルスを弱毒化させたワクチン。例:黄熱ワクチン、はしか(Measles)・おたふく風邪(Mumps)・風しん(Rubella)の3種混合ワクチン(通称MMRワクチン)。

③トキソイド:細菌毒素の毒性をなくしたワクチン。例:破傷風・ジフテリアの2種混合ワクチン(Tdワクチン)、破傷風・ジフテリア・百日咳の3種混合ワクチン(Tdap)。

佐藤厚

新潟県出身。薬剤師(日本・カナダ)
2008年からLondon Drugs(Gibsons)勤務
2011年からバンクーバー新報紙面にてコラム連載開始
2014年から薬局内トラベルクリニック担当
国際渡航医学会医療職認定
2019年から薬局マネージャー