第2回 楠瀬智子先生「歯磨きしても虫歯になるのはなぜ?~虫歯予防の為の知識」前編

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皆さん、ご無沙汰しております。気持ちの良い、晴れた日々が続いていますが、お元気ですか。

時々、患者さんから虫歯に関する質問があり、”虫歯の菌を殺す薬はないんですか?”とか、”私は1日5回も歯ブラシをして毎日フロスもしているのに虫歯になります。でも夫は歯ブラシもちゃんとしないのに虫歯になりません。どうしてでしょう?”など聞かれることがあります。ということで、大変久しぶりのコラムになりましたが、今回は虫歯がどうやってできるのか、虫歯予防のためにできることをお話したいと思います。

まず、虫歯ができる仕組みについて説明します。食事をすると、歯の表面についている細菌が炭水化物を分解して酸を作ります。その酸によって、歯の表面のPhが下がり、歯の表面が溶け、歯のミネラル分が溶け出す、脱灰がおこります。普通は唾液の働きによってPhは中和されて、ミネラルが歯に戻り、歯の表面が再石灰化され、元の状態に戻ります。歯の表面では、このような脱灰と再石灰化が繰り返されているのですが、このバランスが崩れ、再石灰化が間に合わないで脱灰が進んでしまうと、虫歯になります。

それでは、虫歯予防について、口腔内細菌叢(フローラ)、宿主(歯)、唾液、食事という4つの側面から考えていきます。

1.口腔内細菌叢(フローラ)

口の中には500種類以上の細菌や微生物がいて、歯の表面、歯周ポケット、舌の表面など、それぞれの部位に特徴的な細菌叢を形成しています。数多くの細菌は有害ではなく、中には虫歯を起こす菌もいますが、現在、虫歯を起こす菌だけを完全に除去するような抗菌剤はありません。

虫歯の原因となる細菌は、食べ物の中の糖分からネバネバした水に溶けにくい多糖類をつくり、歯にくっついて、そこに他の口腔内の菌が付着して、増殖して、バイオフィルム(プラーク)になります。バイオフィルムは歯にベタっとはりついていて、水や唾液などで流れることがなく、細菌が生息しやすい環境になって、増殖、成熟していきます。

虫歯予防のために、歯ブラシやフロスをすることによって、口腔内細菌叢(フローラ)のバランスを整え、歯の表面の細菌の増殖を抑えることが必要です。ただ、バイオフィルムをできるだけ除去することは大切ですが、すべての歯の表面を完全に清掃することは不可能なので、歯ブラシやフロスなどによるプラークコントロールのみで虫歯予防はできません。

2.宿主(歯)

歯そのものを強くしたり、虫歯になりにくいような環境にすることも大事です。遺伝的に虫歯になりにくい人となりやすい人がいますし、年齢によって虫歯になりやすい時期もあるので、すべての人が同じような対策をするのではないのですが、ここでは一般的なことをお話します。

まず、歯を強くするものとして、フッ素があります。フッ素は、自然界に広く分布している元素で、水、野菜、果物など多くの食品に微量に含まれています。通常、水中のフッ化物レベルは虫歯を防ぐのに十分ではありませんが、一部の地下水や天然温泉には、自然に高レベルのフッ化物が含まれている場合があります。

歯が形成される時期にフッ素が歯に取り込まれることによって、歯質そのものを強くすることができます。歯の表面のエナメル質は、ハイドロキシアパタイトという結晶を主としてできていますが、この結晶は酸に弱いという性質があります。エナメル質の形成のときにフッ素がとりこまれると、ハイドロキシアパタイトは、フルオロアパタイトになります。フルオロアパタイトは酸に対して安定した結晶なので、虫歯の原因菌の作り出す酸に溶かされにくい特徴があります。そのため、エナメル質そのものが強くなり、むし歯になりにくくなります。

さらに、フッ素には歯の再石灰化の促進の効果があります。歯の表面は、細菌の出す酸によって歯のミネラル分が溶け出す「脱灰」と唾液の働きよってミネラルが歯に戻る「再石灰化」が繰り返されているのですが、唾液中にフッ素イオンが存在すると、溶け出したミネラルを歯に戻す「再石灰化」を促進して歯を修復し、酸に強い丈夫な結晶にします。

フッ素入りの歯磨き粉を使って1日2回歯ブラシしたり、歯科医院での定期的なフッ素塗布などで虫歯予防に効果的な量のフッ素を取り込むことができます。虫歯のリスクに応じて、通常よりもフッ素の濃度が高い歯磨き粉やマウスリンスを勧めることもありますが、フッ素もとりすぎると害になるので、年齢や住む環境(水道水にフッ素が入っている地域かどうかなど)などを考慮して、適度な量が決められています。

次に、シーラントによる虫歯予防についてお話します。シーラントとは、奥歯など、歯の溝が深く、虫歯をおこす原因となる細菌が繁殖しやすい場所を、歯を削らずに歯にくっつく材料を使って埋める処置です。シーラントは、虫歯になりやすい、歯が生えてすぐの時期に行うのが一般的で、第一大臼歯の生える6歳前後や第二大臼歯の生える12歳前後に歯の構造を見て、深い溝があれば、そこを物理的に封鎖することで虫歯を予防します。

その他、叢生(歯がデコボコしていて重なり合っている状態)など、歯並びが悪く虫歯になりやすい状態を改善したりすることも虫歯予防になります。

今回のコラムは長いので、今日はここまでにして、次回、唾液と食事の面から虫歯予防についてのお話をします。それではまた。

プロフィール

歯科医師 楠瀬智子
2004年北海道大学歯学部卒業
日本の歯科医師免許、ブリティッシュ・コロンビア(BC)州の歯科医師免許、BC州の歯科衛生士の免許を保有
2016年よりキツラノのDr. Wayne Okamura Inc.にて勤務(火曜、木曜、金曜)

Dr. Wayne Okamura Inc.
TEL:604‐736‐7374
住所:2732 W Broadway #202, Vancouver, BC, V6K 2G4
診療日:火曜から隔週土曜 7:30 am – 6:00 pm(曜日により診療時間は異なります)
診療内容:定期健診、クリーニング、虫歯の治療、根管治療、抜歯、マウスピース矯正などの歯列矯正治療、インプラント手術、ホワイトニングなど