隣組 新型コロナウイルス禍での取り組み

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先を見据えた計画と今後の課題

 WHO(世界保健機関)が、新型コロナウイルス感染拡大で「緊急事態宣言」を出したのは2020年3月。それから2年、世の中の動きが止まったかのような時期もあった。しかし、隣組の活動は止まらなかった。どうやって続けたのか。「コロナ後」の取り組みとは。

2021年 隣組 秋のバザー会場。Photo courtesy of Tonarigumi

インターネットで「つながり」持続

 モニターに25人の顔と名前がずらりと並ぶ。3月22日、「隣組シニアライフセミナー」の時間。毎月第4火曜日の午後1時から2時半まで開かれるこのセミナー、新型コロナウイルス禍でも続いた。ただ、ご多分に漏れずZoomで開催。

 この日のテーマは、「シニア世代の心と体のケア」。参加者たちは、モニターの向こうの講師・鹿毛まりこさんの話にじっと耳を傾ける。うなずきながら聞いている人もいる。マイク操作は慣れたもの。発言もよどみない。80代、90代の参加者もいるが、Zoomを通しては年齢を感じさせない。

 隣組は2015年3月、カナダ政府から「ニューホライズンズ」(New Horizons)というシニア向けプログラムのための助成金を得た。その一部で17台のタブレット型コンピューターを購入。タブレット教室「Tech2Go」 (Technology to Go、お持ち帰り技術)を開始した。

 Tech2Goでは、コンピューター操作が得意のシニアボランティアが、ほかのシニアにタブレット操作を教える。インターネット接続、メールや写真の送信方法を伝授。それを習えば、離れて住む子どもや親戚、友人らとつながり、孤独を解消できる。興味ある話題について検索し、情報を得ることができる。公的サービスの申し込みや受け取りもonlineで可能になり、シニア生活の幅が広がる。

 コミュニティ・サービス・マネジャーの有馬正子さんは、「新型コロナウイルス感染予防の規制で外出がままならず、隣組まで足を運ぶことができなかったシニアの方々でも、Tech2Goプログラムで習得したタブレット操作のおかげで、定期的に顔を合わせ、お互いの声を聞くことができました」と振り返る。

 「Tech2Goプログラムが、この2年間の事態にこれほど役立つとは予想していませんでした。先をみながら活動していくことの大切さを痛感しています」ともいう。

Tech2Goでタブレット操作を習う会員たち。Photo courtesy of Tonarigumi
Tech2Goでタブレット操作を習う会員たち。Photo courtesy of Tonarigumi

BCシニアガイド」日本語版の完成

 新型コロナウイルス禍でも進行した隣組の活動はほかにもある。「BCシニアガイド」日本語版の完成もその一つ。

 「BCシニアガイド」は、ブリティッシュ・コロンビア(BC)州政府が発行している冊子。連邦政府やBC州のシニア向けプログラム、補助金、健康、ライフスタイル、住宅、交通手段、金銭、安全面など、シニアが健康で自立した生活をおくるために役立つ情報がまとめられている。その11版を、14人のボランティアが協力して日本語に訳した。 

ピアサポートと「50+」サポートの推進

 隣組では現在準備中のプロジェクトもある。

 一つは、ピアサポート(Peer support)。シニアが抱える悲しみ・不安・孤独、孤立感などの感情を癒す支援を、専門家により訓練を受けたボランティアが1対1で提供する。まずは、この分野の専門家とボランティアの育成が必要だ。

 もう一つは、「50+」サポート。近年、「人生100年時代」という言葉が聞かれるようになった。長い人生を安心して暮らすためには、定年がぐっと現実味を帯びてくる50歳過ぎから、老後の人生設計に取り組むことを隣組は提唱。そのためのアイデア提供と意見交換の場を設けるというプログラム。

 テーマには、高齢化に伴う健康面・社会面・金銭面についての問題点や解決法、受け取る年金、国からの補助金制度の紹介などが含まれる。

 「50+」世代を対象に、夕方や週末のセミナー、ワークショップの開催が考えられている。やはり将来に備えるためのコミュニティ活動だ。

「コロナ後」の取り組みと課題

 隣組では2021年、トロント大学とサイモンフレーザー大学の研究者から協力を得て、バンクーバーに住む一人暮らしの日本人シニアに関する調査を行った。その結果、調査対象者15人(70~90代)の中には、英語を母国語としないことや、一人暮らしのため、カナダの社会福祉サービスや医療サービス制度について知らず、必要なサービスも利用できていないのではないかという懸念が導かれた。そして、問題意識の軽減や解決のため、なるべく早い段階でコミュニティや組織とつながる必要性が示唆された。隣組事務局長の船橋敬子さんはこう語る。

 「コロナ禍での取り組みを通して、シニアやほかの世代の日本人移住者のニーズを実感できました。その経験を既存のプログラムやサービスに反映させたり、新しいプロジェクトを開始したりすることを考えています。具体的には、Zoomや電話プログラムなどを通して、遠方に住んでいたり外出が難しくなった人でも参加できるアクティビティの継続、公的サービスなど生活に必要な情報を日本語で提供、対面で人とつながったり情報交換ができる金曜日の『憩いの場』の活性化です」

 しかし、隣組はコミュニティからの寄付金と、いくつかの1年契約の助成金で運営しているため、毎年同じ活動を続けることへの保証はない。

 「限られた運営資金とスタッフ、コミュニティを思って貢献してくださるボランティアの皆さんと、できるかぎりのプログラムやサポートサービスを提供し続けることが、コロナ禍のあとの隣組の課題です」と船橋さんはいう。

 日系コミュニティの高齢化、コロナ禍で以前のように活動ができなくなったシニアの増加もあり、求められる支援のニーズもレベルも高まってきている。当然、サービスやプログラムの改革・拡大が求められる。

 隣組は、カナダにおいて日本語で支援を行う数少ない団体の一つ。コロナ禍にあっても活動を継続した経験に自信を添え、挑戦と進化は続く。

シニアクラフトクラブで製作中の会員たち。Photo courtesy of Tonarigumi

(取材 高橋 文)

●「BCシニアガイド」日本語版の入手方法

ダウンロード(無料):
https://www.tonarigumi.ca/post/bc-seniors-guide-japanese-translation

印刷したガイド(10ドル、送料実費):
隣組コミュニティーサービス担当まで問い合わせる。
電話:604-687-2172 内線102 
メール:services@tonarigumi.ca 

●隣組調査報告「カナダ在住の日本人高齢者の生活に関する調査報告」(2021年)

https://www.tonarigumi.ca/post/%E9%9A%A3%E7%B5%84%E8%AA%BF%E6%9F%BB%E5%A0%B1%E5%91%8A-2021?lang=ja

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