新型コロナウイルスの今、歯科治療の現状

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 新型コロナウイルス感染症の拡大により、歯科受診は危険ではないかと不安に感じる人が多いのではないだろうか。

 Dr. Wayne Okamura Dental Officeの楠瀬智子先生が、新報取材に応えて、どのような対策をしているか詳しく教えてくれた。

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新型コロナウイルス感染症と歯科

 こんにちは。新型コロナウイルス感染症という新しい感染症が広がり、子供から大人まで生活様式が大きく変わりました。皆さんの日常生活やいろいろな業界の仕事にも大きな影響があることと思います。

 私たちの歯科医院(Dr Wayne Okamura Dental Office) も3月中旬から2か月近くお休みになりました。

 その間も急患の患者さんの対応はしていましたが、BCのMinistry of Healthから命にかかわるような緊急の治療以外はできるだけ患者さんを直接診察せず対応するようにという指示の下、私たちのオフィスでは休みの間に200件以上の緊急の電話がありましたが、ほとんどの患者さんはオフィスで診ることはできず、電話で投薬などをしていました。

 Phase2への移行に伴い、5月半ばからはオフィスを再開し、現在は新しい様式を取り入れて治療にあたっています。

 歯科も含め、病院や診療室などではもともとStandard Precautionという、感染症の有無に関係なく全ての患者さんを対象に感染予防のガイドラインが作られていて、それに沿って感染予防対策を行ってきました。

 歯科では治療の後は器具を滅菌したり、体液などが着く可能性のあるところはすべて消毒し、プラスチックカバーを交換したりします。術者は目や鼻や口をゴーグルやメガネや マスクで覆い、手袋をしたりなどの対策をしています。

 ただ、現在流行している新型コロナウイルス感染症は未知の感染症でわからないことが多く、新型コロナウイルスに感染していて無症状の患者さんがどのくらいの感染力があるのかもまだわかりません。

 歯科治療では患者さんとの距離がとれない上、口腔内という唾液が飛びやすい環境です。

 無症状の患者さんが来られた時にどのようにして私たちが感染しないようするのか、また患者さんどうしが感染する環境を作り出さないようにはどうすればよいのか、私たちスタッフが感染して無症状だった場合に患者さんに感染する可能性があるのか、休みの間に様々なオンラインのセミナーなどを通して学んだりしていました。

 現在は少しずつ感染の経路などがわかってきていて、ガイドラインもあります。ただ、まだデータも多くはないし、これから変わっていく可能性はありますが、今回は私たちがどのようにして感染予防対策をしているのかを紹介します(2020年9月1日現在)。

新型コロナウイルスの感染経路

 まず、新型コロナウイルスの感染経路を3つに分けて、それぞれに対する対策をお話します。

1.Contact transmission 接触感染

 接触感染は、感染者から出されたウイルスがついた、汚染された表面を触ることによって、ウイルスが手に付着し、その手で鼻や目や口を触ることで粘膜から感染するものです。この感染を防ぐために次のようなことを行っています。

ー患者さんがオフィスに入ったらまず、手指消毒剤で消毒してもらう。
ー受付にはおもちゃや雑誌などをおかない。
ードアノブや受付のカウンターなどは頻繁に消毒する。
ー荷物の配送などの人には入室した時間と出た時間を記録してもらい、荷物は直接受け取らず、奥の通路においておいてもらう。
 ーオフィスに入るすべての人たち(患者さん、スタッフ、配達の人々など)は全員マスクを着用する。

2.Droplet transmission 飛沫感染

 飛沫感染は、感染者からのくしゃみ、咳などのウイルスのついた飛沫(5μm以上)が、鼻粘膜や口腔粘膜に付着して感染するものです。

 新型コロナウイルスではこの感染経路が一番多いと言われていて、2メートル以上のソーシャルディスタンスをとったり、マスクをしたりするのはこれを防ぐためです。

 歯科治療ではソーシャルディスタンスをとって治療ができませんが、私たちがしている感染対策は、
-感染の可能性のある人(風邪症状のある人、カナダ国内でも感染の多い地域から帰ってきて2週間内の人、コロナ陽性者と接触した人など)は来院しないようにしてもらう。
 ー患者さんとスタッフ全員、オフィスに入る時に健康状態の問診と体温計測をする。
-治療の直前までマスクを着用してもらい、治療が終わったらマスクをしてもらう。
-待合室の人数を制限して、患者さんにはすぐに治療室に入れるように来院前に電話をしてもらって治療室の準備ができてから来院してもらう。
-小さい子供などの付き添いは以外は原則的に患者さん1人だけできてもらい、付き添いの必要な方は治療中はクリニックの外で待ってもらう。
小さい子供の付き添いはマスクをして治療室に一緒に入ってもらう。
-受付にはバリアシールドをおき、受付もマスクを着用する。
-歯科医師、アシスタント、歯科衛生士はフェイスシールド、メガネ、レベル3マスクもしくはN95マスクをして治療にあたる。

3.Aerosol transmission 空気感染

 空気感染は感染病原体を含む飛沫核(5μm以下)が空中を浮遊して感染することで、はしか、結核などはよく知られた空気感染を起こす感染症ですが、新型コロナウイルスもまれに空気感染することがあるのではないかと言われています。

 感染者が長時間にわたり密室で歌ったり叫んだりする場所で多くのウイルスを浴びたり、医療施設などでのエアゾルを発生させる処置(気管挿管など)で大量のウイルスを浴びることによっておこることがあるを指摘されています。

 この感染を防ぐために以下のようなことを行っています。

-クリニックの中の換気をよくするため、新しく壁に穴を開けて、通気口を設置し、建物の空調の仕組みを変え、以前はオフィス内の空気を循環させた空調システム(オフィス内の循環の空気が80パーセント、外からの空気を使った冷房が20パーセントだった)をオフィス内の循環をなくし、外気を使った空気を100パーセントにした空調システムに変更しました。
-空気清浄機を設置しています。
-できるだけエアゾルを発生する処置をしない。
(衛生士はエアゾルを発生する治療はしていません。
以前はクリーニングの時に超音波スケーラーを使っていましたが、今はハンドスケーリングのみにしています。ポリッシングもしていません。)
-歯を削ったりする歯科治療の際はできるだけラバーダムを使用する。
(ラバーダムというゴムのシートをかけることによって、治療中に唾液などが外に出ることを極力防ぎます。)
-治療の前に洗口薬での口腔内のうがい(30秒)をしてもらう。
-エアゾルを出す治療の際は、歯科医師、アシスタントともにN95マスク、フェイスシールド、メガネ、ガウン、帽子を着用しています。
 ー歯を削る治療のときはエアゾルを減らすためHEPA vacuum system(口腔外バキューム)を使用しています。

最後に

 今回の記事を書くにあたって、CDCとWHOのWebsiteを参考にしています。新型コロナウイルス感染症は無症状や軽症の方が多いですが、一定の割合で重症化する方がいることも分かっています。ワクチンができるのも時間がかかるでしょうし、治療薬が確立されていない今日ではできるだけかからないようにするのが一番です。

 医療は早期発見早期治療というのが原則で、私自身、 日々の診療の中でもうすこし早く診れていたら、と思うことはよくあります。ただ、このパンデミックという中で、どのような感染予防対策をしていても、新型コロナウイルス感染症の感染のリスクがゼロではありません。

 私たちはできるだけの感染予防対策をしていますが、今回の記事は安全なので来てくださいというメッセージではありません。歯科治療に関して審美的な治療などは延期を勧めていますし、高齢の方や基礎疾患がある方など、感染したときの重症化のリスクによっては、延期できる治療の場合は延期されたほうがよいと思います。

 患者さんには事前にメールでスクリーニングの用紙とともにBCのDental association が作成した新型コロナウイルス感染症のパンデミック承認書にサインをしてもらってから治療を行っています。

 早くパンデミックが終息して、大勢で食事をしたり、お祭りなど人が集まる行事が普通にでき、皆さんが普通に日本に帰ったりできる日が来ることを願っています。

2020年9月1日    楠瀬智子

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