治療薬の開発博士に聞く 認知症予防 Part 1/2

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あなたが認知症にならないために

 日本語認知症サポート協会が、世界初のアルツハイマー病治療薬「アリセプト」の開発者、杉本八郎氏をゲストに迎えて開催する講演会。3回シリーズで開催される。

 『あなたが認知症にならないために』とのタイトルで予防について解説があった、11月15日に開催された第2回講演会を、Part 1、Part 2と2週連続でリポートする。

 杉本氏はまず、孫子の「敵を知り己を知れば百戦危うからず」を引用して、まずは「敵」、認知症について説明した。Part 1では認知症の概略をまとめる。

脳血管性障害、糖尿病、ビタミンB12欠乏…原因はさまざま

 ひと言で認知症といっても、原因はさまざまだという。例えば、脳血管性障害、ピック病、パーキンソン病などの脳神経変性疾患、クロイツフェルト・ヤコブ病などのプリオン病、エイズ脳症、髄膜炎、進行麻痺、脳腫瘍、神経ベーチェット、多発性硬化症、慢性硬膜下血腫、正常圧水頭症、甲状腺機能低下症、慢性閉塞性肺疾患、糖尿病、ビタミンB12欠乏、ウェルニッケーコルサコフ症候群が挙げられる。 

認知症 ONLINE 編集部 (2016年1月27日) 杉本八郎氏講演資料
認知症 ONLINE 編集部 (2016年1月27日) 杉本八郎氏講演資料

 また、認知症にも数種類ある。主なものはアルツハイマー型認知症、レビー小体型認知症、脳血管性認知症、前頭側頭型認知症などだ。

 以前は脳血管性認知症が70パーセント近くを占めていたが、診断方法などの進歩とレビー小体型認知症が発見されたことなどから、発症の割合が大きく変わった。ちなみにレビー小体型認知症に治療の承認を得ているのは現時点で杉本氏が開発に取り組んだアリセプトのみという。

 次に症状だが、大きく分けて中核症状と、心理症状、行動症状の周辺症状がある。周辺症状は、BPSDとも呼ばれる。

 杉本氏はBPSDのうち心理症状として妄想、幻覚、不安・焦燥、抑うつ、介護抵抗、行動症状として暴言・暴力、徘徊、睡眠障害、食行動・異常、失禁・ろう便を例に挙げた。

脳の細胞が壊れることによって起こる中核症状

 中核症状は記憶障害、判断力障害、実力機能障害、見当式障害、失認・失行・失語などになる。

 まず記憶障害だが「脳内で記憶を司る部位と言われる『海馬』が萎縮することで起こります」と杉本氏は述べた。「海馬の萎縮で新しい情報を詰め込むことができなくなると考えれば良いでしょう」

 そして、「新しい情報つまり直近のできごとを覚えておくことができなくなります。また、進行すれば古い記憶も失われていきます」と説明した。

 見当識障害が起こると”いつ”、”どこ”、すなわち今現在の時代や日時、また居場所について理解できなくなる。
 
 認知症患者で最初になくなるのは時間の感覚だという。予定していたことができなくなったり、待ち合わせの時間を覚えていられなくなったりと、近々の時間の感覚が薄れていく。

 次に季節についての感覚が低下していく。季節に応じた話題に対応できなくなったり、冬場に半袖を着るなど服装もわからなくなったりする。”どこ”がわからなくなると、外出したまま迷子になってしまう。
 
 「自宅や施設の中での生活でも、トイレに行ったまま自室に戻れなくなるなど、距離感や広さに関係なく、自分の居場所について理解できなくなります」と語った。

 さまざまな物事を組み合わせて、計画性を持って実行しているが、実行機能障害ではこれができなくなる。あるいは予定外の事態が起きたときに適宜、計画を実行することができなくなる。

 「スーパーでハムを見つけて、自宅にある卵を使ってハムエッグを作ろうと考えたとします。認知症の人では自宅に卵があることを忘れて、卵もよけいに買ってしまったり、帰宅した時点で、なぜハムを買ってきたのか忘れてしまいます」と杉本氏は実行機能障害について説明した。

 判断能力障害では、理解・判断能力も低下する。「考えるスピードが遅くなる」、「同時に2つ以上の物事を考えられなくなる」、「ささいな変化に対応できなくなる」という。

周辺症状の暴言、うつ、幻覚

 周辺症状の一つにうつがある。認知症となり、それまでできていたことができなくなり落ち込む。そして悲観してばかりいると、やがてうつ状態になってしまう。

 認知症による不安やうつは、暴力、暴言につながることもある。暴力、暴言は記憶力の低下からも起き、「例えば日常生活上で注意されることが多くなると、『毎日毎日うるさい!』となってしまう。「認知症の人は以前に言われたことは忘れていることが多いのですが、『うるさく言われる』ということだけは記憶に残っています」と介護者には気を付けてほしいと述べた。

 レビー小体型認知症で特に多く見られる症状が幻視・幻聴。「例えば幻視では、脳の後ろ側にある視覚を司る後頭葉がダメージを受けることで起きる」ため、薬物療法によって症状を抑制するのがベターという。

脳血管性認知症とアルツハイマー型認知症の違い

認知症の代表的なものには、脳血管性認知症とアルツハイマー型認知症がある。

脳血管性認知症は
・60歳以降に起きやすい
・男性に多い
・急性発症、階段状に悪化動揺性
・まだら痴呆ともいう
・運動麻痺、歩行障害
・病識は晩期まで残る
・梗塞巣の多発、大脳白質病変

一方、アルツハイマー型認知症は
・発症は初老期から高齢まで起きる
・女性に多い
・緩徐に発症、進行性
・全般性痴呆
・失語、失行、失認
・病識は早期に消失
・画像診断で脳萎縮(海馬)が顕著という

2020年10月発行の杉本氏による『世界初・認知症薬開発博士が教える 認知症予防 最高の教科書』(講談社)。創薬の際に研究した認知症予防のための成分に基づき、認知症予防にはどのような食べ物がいいのか、また、認知症にならないためにはどのような生活を送ればいいのかなど、生活全般に渡って解説する。https://bookclub.kodansha.co.jp/product?item=0000344451

杉本 八郎 (薬学博士)  
プロフィール
1942年東京都生まれ
1961年 (株) エーザイ入社
1993年 10月 エーザイ科学賞受賞
1998年 3月 日本薬学会技術賞受賞、同年4月英国ガリアン賞特別賞受賞、同年5月化学・バイオつくば賞受賞
2002年 6月 恩賜発明賞受賞
2003年 3月(株)エーザイ定年退職後、京都大学大学院薬学研究科客員教授 、京都大学大学院薬学科最先端創業研究センター教授を経て、現在、同志社大学生命医科学研究科客員教授 

日本薬学会理事、有機合成化学協会理事、一般社団法人認知症対策推進研究会代表理事、(株)グリーン・テック代表取締役

趣味は俳句。日本俳人協会会員、俳誌「風土」同人会長
剣道教士七段

Part 2に続く。

(取材 西川桂子)

杉本氏の講演第三回『アルツハイマー病治療薬 開発の夢を追って』(2月13日)の詳細はこちら

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