治療薬の開発博士に聞く 認知症予防 Part 2/2

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あなたが認知症にならないために

 日本語認知症サポート協会が、世界初のアルツハイマー病治療薬「アリセプト」の開発者、杉本八郎氏をゲストに迎えて開催する講演会。3回シリーズで開催される。

 『あなたが認知症にならないために』とのタイトルで予防について解説があった、11月15日に開催された第2回講演会を、Part 1、Part 2と2週連続でリポートする。

 Part 1の認知症の理解を深めるための概略に続き、Part 2では第2回講演会の主題の予防についてまとめる。

 講師の杉本八郎博士は、『世界初・認知症薬開発博士が教える 認知症予防 最高の教科書』という本も出版している。

降圧剤、赤ワイン、米、米ぬか、小麦、大麦などに含まれるフェルラ酸

 まず、降圧剤による認知症予防だが、ヨーロッパで60歳以上の高血圧患者2,902人を6年間追跡した結果、降圧剤による認知症予防に効果があったとされる。(山口晴保著『認知症予防』)

 赤ワインも良いと考えられている。赤ワインには老化防止作用があるミリセチンやモリンといった物質、いわゆるポリフェノールがたくさん含まれている。このポリフェノールに、アルツハイマー型認知症の発症に関わっているアミロイドβの凝集を抑える作用がある。

 さらに杉本氏はフェルラ酸(ferulic acid)の効果についても言及した。

 中村重信氏の『老年医学』によると、アルツハイマー病通院患者143人とその家族の協力を得て、9カ月間フェルラ酸を投与して、3カ月毎に、認知機能検査を行ったところ、軽度の患者の場合、試験終了時まで改善が続き、中度の患者も6カ月後まで改善状態が続いたという。アルツハイマー病患者の認知機能は通常、時間の経過とともに低下し続ける。

 フェルラ酸は「米、小麦、ライ麦、大麦やコーヒー、リンゴ、アーティチョーク、ピーナッツ、オレンジ、パイナップルなどの種子の中にも見られます」と語った。

インド人に認知症は少ない?

 インド人のアルツハイマー病患者は米国人の1/4で、これはウコン(ターメリック)の中のクルクミンが関係している。クルクミンはアルツハイマー病の原因となるたんぱく質「アミロイドβ」ができるのを防いだり、できてしまったアミロイドβを分解する効果がある。

 「加齢になったらカレーを食べよう」とジョークを交えて杉本氏はカレーの予防効果について説明した。

昼寝や歯の健康、肥満

 そのほか、認知症に良いものは昼寝、俳句という。ただし昼寝については1日60分以下で、「60分以上だと逆にアルツハイマー病のリスクが高まります」と注意をよびかけた。

 さらに俳句を詠むと、脳の「司令塔」と呼ばれる前頭前野が刺激され、強く活性化される。脳の血流量が増し、認知症の予防や改善に効果があるという。杉本氏も俳句が趣味で、自然を観察する力がつくうえに楽しい仲間がたくさんできると参加者に勧めた。

 歯の健康も大切で、健常な高齢者を6年間経過観察したところ、元から歯がなかった人は歯が20本以上あった人と比べて認知症リスクは5.2倍だったという。

 また、肥満も認知症のリスクという。スウェーデンのコホート研究*、男女合わせて392人を70歳から18年間追跡調査した。「認知症を発症した女性と発症しなかった女性とを比較したところ原因は明らかに過剰体重でした」と杉本氏は述べた
(*コホート研究とは「調査時点で、仮説として考えられる要因を持つ集団(曝露群)と持たない集団(非曝露群)を追跡し、両群の疾病の罹患率を比較する方法」(日本疫学会ウェブサイトより)

認知症と戦うための十か条

 杉本氏は自身が考えた「認知症と戦うための十か条」も紹介した。

 第1条は週3回以上の有酸素運動。
 杉本氏は「有酸素運動とは、筋肉を収縮させる際のエネルギーに、酸素を使う運動のことで、ジョギングや水泳、エアロビクス、サイクリングといった、ある程度の時間をかけながら、少量から中程度の負荷をかけて行う運動が代表的です」と説明した。

 そのほか例を挙げたのは踏み台昇降、もも上げ運動、ハーフスクワットだった。

 第2条、熱中できる趣味を持つ。
 映画鑑賞、旅行など知的好奇心を満たす創造的な趣味を持つことで認知症の発症リスクを減らすことができるという。

 第3条、血流を正常に保つこと。
 脳は全体重の2%程度を占めるに過ぎないのにもかかわらず、身体を流れる全血液量の約15%が運ばれ、全身の酸素量の約20%を消費する。

 高血圧、高脂血症、糖尿病、肥満、動脈硬化、脳卒中、心疾患になると血流が悪くなり、それが認知症の原因となることがある。つまり、これらの生活習慣病にならないようにすることが、認知症の予防にもなる。

 第4条、社交性を保つ。
 「夫婦同居で子供と週1回以上会う。友人または親族と週1回以上会う」人と、「一人暮らしで子どもと週1回未満しか会わない。友人や親族と週1回未満しか会わない」人とでは、認知症発症リスクは1:8。職場や家庭以外の場所、サード・プレース(第3の居場所)を持つことを勧めた。

 第5条、いつも笑顔でいること、いつも人をほめること。

 第6条、不平、不満、愚痴・泣き言、悪口、文句を言わない。

 第7条、認知症予防にいい食べ物を多くとる。
 認知症の中で最も多いアルツハマー病では脳の中にアミロイドβとタウタンパクが蓄積して脳の細胞が死滅。その結果、脳が委縮して、認知機能が障害される。そのため、これらのタンパク蓄積を抑える食べ物が大切だと説明した。

 第8条、サプリメントの活用。
 
 第9条、喫煙はダメ、酒は適量、良質な睡眠、口腔内ケア。

 最後の第10条は人助けをすること。

 認知症になっても安心して、心豊かに生きることができる世界を築くことができれば、認知症は怖くない。「そのためにみなさんが人のために生きる、人助けをすることから始めませんか」と締めくくった。  

(取材 西川桂子)

2020年10月発行の杉本氏による『世界初・認知症薬開発博士が教える 認知症予防 最高の教科書』(講談社)。創薬の際に研究した認知症予防のための成分に基づき、認知症予防にはどのような食べ物がいいのか、また、認知症にならないためにはどのような生活を送ればいいのかなど、生活全般に渡って解説する。https://bookclub.kodansha.co.jp/product?item=0000344451

杉本 八郎 (薬学博士)  
プロフィール
1942年 東京都生まれ
1961年 (株) エーザイ入社
1993年 10月 エーザイ科学賞受賞
1998年 3月 日本薬学会技術賞受賞、同年4月英国ガリアン賞特別賞受賞、同年5月化学・バイオつくば賞受賞
2002年 6月 恩賜発明賞受賞
2003年 3月(株)エーザイ定年退職後、京都大学大学院薬学研究科客員教授 、京都大学大学院薬学科最先端創業研究センター教授を経て、現在、同志社大学生命医科学研究科客員教授 

日本薬学会理事、有機合成化学協会理事、一般社団法人認知症対策推進研究会代表理事、(株)グリーン・テック代表取締役

趣味は俳句。日本俳人協会会員、俳誌「風土」同人会長
剣道教士七段

治療薬の開発博士に聞く 認知症予防 Part 1/2

(取材 西川桂子)

杉本氏の講演第三回『アルツハイマー病治療薬 開発の夢を追って』(2月13日)の詳細はこちら

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