混乱の中で始まった薬局でのアストラゼネカ接種を専門家に聞く

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 ブリティッシュ・コロンビア(BC)州で、2021年3月31日、薬局でのアストラゼネカ製ワクチン接種の予約が始まった。3月30日に接種開始の発表があった翌日のことだ。

 薬局でのアストラゼネカ製ワクチン接種対象は4月9日現在、バンクーバーコスタルとフレーザーヘルス区域に在住する55歳から65歳までの希望者となっている。近いうちに州全域の主要都市に拡大する予定も発表された。

 一方、3月29日にBC州衛生管理局長ボニー・ヘンリー博士が、55歳未満のアストラゼネカ製ワクチンの使用を一時停止すると発表した。3日という短期間で、特定グループへの接種停止、薬局での接種開始の発表、接種開始と、怒涛の急展開に戸惑いの声が上がっている。

 そこで今回は、サンシャインコーストのロンドンドラッグスに勤務する薬剤師の佐藤厚さんに、アストラゼネカ製ワクチン接種に関する対応や状況を聞いた。佐藤さんは、バンクーバー新報コラム『お薬の時間ですよ』の連載でもお馴染みだ。

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 3月30日の午後に発表があって、31日に薬局での接種開始ということで混乱したのではないですか? 

 薬局での接種はいつか始まるであろうと予想していましたが、事前の通知はなく、メディアが先行した形となってしまいました。その結果、私の薬局では、発表直後から問い合わせの電話が鳴りやまず大変でした。

 3月31日時点ではアストラゼネカ製ワクチン接種を行う薬局はローワーメインランドが中心で、バンクーバー島やサンシャインコーストの薬局では対応していませんでしたよね?

 はい。私が勤務する薬局では接種は行うどころか、ワクチンさえ入荷されていませんでした。ただ、これから接種機関としての指定は順次拡大していくものと思われます。

 州政府とメディアが先行したため、私の薬局にはワクチンの在庫さえない旨を説明すると、立腹するお客様もいらっしゃいました。しかし、逆に、アストラゼネカ社のワクチンには安全性の懸念がある中でも、これだけの方がワクチンの接種を受けたいのだと驚く部分もありました。

 ワクチンを入荷した店舗では、すぐに予約が埋まったと聞いています。

 その後も、各店舗への電話が鳴り止まなかったようで、本社はラジオを通して「ロンドンドラッグスの予約はすでに埋まっているので、電話を控えてください」とお願いしていました。その甲斐もあってか、31日の午後には、ようやく電話の問い合わせが落ち着いてきました。

 今回の薬局での接種の開始は、少し前に政府から連絡があったのでしょうか? 佐藤さんは1月のコラムで春には薬局での接種を開始と「予言」していましたよね。

 事前連絡はなかったです。水面下の調整が進んでいる様子は伺えましたので、いつか薬局での接種が始まるとは思っていましたが、その具体的な時期などは全く知らされていませんでした。ただ、ワクチン保管条件の問題もあるので、薬局で接種を始めるとすれば、通常の冷蔵保存(2〜8℃)が可能なアストラゼネカ社のワクチンになるだろうとは予想していました。 

 ファイザー製のワクチンはマイナス70度という超低温での冷凍で保管する必要があり、このような特殊な冷凍庫を各薬局に配備するのは現実的ではありません。しかし、アストラゼネカ社のワクチンでは、そのようなことはありません。

 今回急な接種が決まったのは、4月2日に有効期限の切れるワクチンが国外から相当数輸入されたからとも言われています。

 3月31日の時点ではロンドンドラッグスのチェーン内でも接種機関となったのは3店舗で、ギブソンズは入っていませんでした。

 薬局の接種機関選定は、該当地域の人口構成や過去のインフルエンザの接種数などのデータに基づいて決まると聞いています。

 いつ接種機関の指定を受けて、*いつ接種を始めなければならないかは不明ですが、会社(ロンドンドラッグス)の方では、以前からオンライン予約システムの整備を進めてきました。
(⋆注:インタビューの翌日(4月1日)には、ギブソンズのロンドンドラッグスもワクチン接種機関としての指定を受け、4月7日から接種が始まった)

 ただ、ワクチン接種に必要なシリンジや注射針は、以前から確保するようにしていました。クリスマス前の時点で、すでに注射針の入荷が断続的になっていましたので、今後も仕入れ状況を注視していきたいと思っています。

 3月にフレイザーヘルスがワクチン接種を行うスタッフの求人を出していました。接種が始まると薬局でもマンパワーが問題になりますか?

 少し前にサレーメモリアルホスピタルでワクチン接種を行う人員が足りないということで、私の薬局からも1人の薬剤師がボランティアとして手伝いに行きました。

 このような形で病院は臨時で接種人員を増やすことも可能ですが、民間の薬局ではそれができません。予防接種にはとにかく薬剤師が必要ですから、ワクチンが届いたからといってその日から接種がスタートできるとは限りません。この辺のマネジメントは、今後各薬局の課題となりそうです。

 アストラゼネカのワクチン接種の手順はどのような形になりますか? インフルエンザの予防接種同様、終わったら椅子に座って待つのでしょうか?

 はい。通常のインフルエンザワクチン同様に、問診、接種、15分の待機という流れになります。これはアナフィラキシーのような即時型の反応が出た場合に、対応できるようにするためです。

 ファイザーを接種した高齢者の方たちは、あまり副反応もなく、受けてよかったという感想を多数聞いています。

 特殊な例を除けば、高齢者の方のほうがワクチンに対する副反応は出にくいという傾向はあります。接種をする側の人間としても、副反応の少ないワクチンは安心して接種をできます。

 55歳未満のアストラゼネカ製ワクチンの使用を一時停止すると発表したあとのことで、私の周りの日本人には不安に感じている人も多いです。

 アストラゼネカ製ワクチンと血栓の関連性は非常に気になっていますが、ワクチンが届いたら接種をすることになります。1日でも早く因果関係が解明されて、みなさまが安心してワクチン接種を受けられるようになればと思っています。

 当初、メディアで大きく取り上げられていたファイザー社のワクチン接種の際にみられるアナフィラキシーは、エピペンを利用するなどして対処できますが、血栓の場合そういう風にはいきません。

 安全性の懸念はありますが、問い合わせの電話が鳴り続ける様子を見る限り、接種をためらう人よりも希望する人の方がはるかに多いものと思われます。

 世界各国で進んでいる新型コロナウイルスのワクチン接種は、人類の未来をかけた、科学に基づく壮大な実験だと認識しております。より多くの人がワクチン接種を受け、1日でも早く、安心して生活できる日が戻ればと思います。

 ありがとうございました。

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ロンドンドラッグスのウェブサイトでは、対象者はアストラゼネカ製ワクチン接種の予約ができる。
https://pharmacy.londondrugs.com/HealthClinics/FeaturedArticles/COVID-19-Vaccinations

ブリティッシュ・コロンビア薬局協会のウェブサイトでは、ワクチン接種機関となったすべての薬局を確認することができる。
www.bcpharmacy.ca/resource-centre/covid-19/vaccination-locations

佐藤厚

新潟県出身。薬剤師(日本・カナダ)
2008年よりLondon Drugs(Gibsons)勤務
2014年、国際渡航医学医療職認定(CTH)を取得し、薬局内でトラベルクリニックを担当
2016年、認定糖尿病指導士(CDE)
2019年からは薬局長を務め、マネジメントに奮闘

バンクーバー新報でコラム『お薬の時間ですよ』を連載。

*記事は2021年4月9日時点での情報に基づく

(取材 西川桂子)

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